2019.05.14 先生向けコラム 【第1回】体験で終わらせない、キャリア教育の産学連携実例
岡山県倉敷市の学校法人ノートルダム清心学園 清心中学校・清心女子高等学校。社会が激変する中で、130年以上引き継がれている精神と新しいことに挑み続ける教員と生徒。一般社団法人 カンコー教育ソリューション研究協議会との産学連携キャリア教育プロジェクトを通じて、様々な立場からプロジェクトでの変化やこれからの学びについて語っていただきました。(全7回)
「“マーケティング”をテーマに、社会人基礎力を育成する授業を一緒に考えませんか」と先生よりお声掛けいただき、約半年の準備期間を経て3コマのカリキュラムを実施。今回は、ねらいに対する様々な仕掛けを中心にご紹介します。
産学連携キャリア教育「マーケティング」プロジェクトとは?
生徒が「ん?なにそれ?」となるようにと先生と決めた授業タイトル
高校1学年を対象に、実施時期は1月、3コマで実施しました。(週に1コマ、3週に渡り実施。※LHRを活用)「マーケティング」をテーマに、商品開発・企画・プレゼンの仕事体験を通じて、社会人基礎力の育成を目指し、半年前から準備をはじめました。
プロジェクトを通じて、育成したい資質・能力と課題設定
社会人基礎力の中から、主体性・判断力、チームワーク力・コミュニケーション力・表現力をねらいと定め、課題設定やチーム編成、評価方法、各回の学習指導案など準備を進めました。
その中で、マーケティングが体感でき、かつ生徒が自分事として考えられるテーマ(課題)として「学校のよさが次の入学検討者に伝わるクリアファイルを企画・プレゼン発表すること」を課題に設定しました。
上記をねらいとしたプロジェクトゴールと流れ
ワークブックより抜粋
マーケティングに関する知識・技能のインプットは初回(上記1)のみ。以降は、学んだことをどう活かすかのアウトプットを個人やチームで取り組み、最後に相互評価や自己評価で成長に気づけるように学びを先生とデザインしました。
自然と、学習指導要領の「育成すべき資質・能力の三つの柱」に示される「何を学ぶか、どのように学ぶか、何ができるようになるか」の視点に立ちながら、ディスカッションを重ねました。
ゲストからの社会で活用できる知識・アドバイスで、学ぶ動機づけを実施
1.マーケティングとは何かを知る
初回授業は、当協議会のファシリテーターとゲストの講義形式。導入にて、セルフアセスメント(自己評価)やプロジェクトのゴールなどを説明し、ゲストとのクロストークへ。
マーケティングを知るために、講義だけではなく、新規ブランドやショップの立ち上げ経験をもつ東山 愛さん(当協議会 所属)より、マーケティングに関する仕事内容ややりがいを紹介しました。事前打合せにて生徒が共感・ワクワクする要素を盛り込むことを決定し、イベントでランウェイを歩くモデルや、撮影現場の裏話などを紹介しました。
これから企画を考える生徒へ「いまのみなさんの視点を活かして、みなさんだから考えられる企画をつくりあげてください」とメッセージを伝えました。
最後に、個人で企画を考える課題を説明し、終了。ゲストを呼ぶことで、今の学びが社会で活かされ、誰かに対する貢献につながることをイメージしながら、学ぶ動機づけやキャリア形成を促すことをねらいました。
生徒の声(ワークブックから抜粋)
Q.プロジェクトが終わった後どうなっていたいですか?
・自分の意見を持ち、思い通り発表できるようになっていたい
・たくさんの人と協力し関われるようになる
・自分の強みを理解してそれを活かして物をつくる
・協力して戦略を練り、一つのものを作る力をみにつけたい
・自分が1段階成長できるように自分の考えをまとめられるようになりたい
生徒と創りあげられる余白があることも、学びのデザイン
公募で集まった実行委員会との打合せを実施
初回授業終了後に、実行委員会の生徒たちと次回以降のスムーズな進行のための打合せを実施しました。
テーマ(課題)に関する質問に答えた後、ほかの生徒が楽しみながら主体的にプロジェクトを進めるために、何かできることがないかとディスカッションを重ねた結果、生徒発案のアイデアから評価ツールと副賞の追加の実施が決定。
友光先生のファシリテートで意見が飛び交う
生徒のアイデアからうまれた評価シート
自分たちの企画のどこが評価されたかを知ることで、ふりかえられるようにしたいという理由から、コメントやオリジナルの賞を生徒同士で伝え合うツールを先生と開発し、3回目のプレゼン評価で導入することを決定しました。
2.個人で企画を考える / 3.チームで企画をまとめる
個人課題(ワークブックに記入された企画書)
チームで企画書にアウトプットする
2回目の授業は、クラス(コース)混在チームに分かれ、7ブロック(教室)で同時進行していきました。各教室には、当協議会・菅公学生服株式会社からファシリテーターが入り、前回の実行委員会との打合せ内容の共有や、チームでの企画書仕上げをファシリテート。個人で考えた企画を共有しながら、時間内に企画書(模造紙)を制作してきました。
育成したい資質・能力に対し、限られた時間の中で企画書制作、次回に向けた発表内容や役割分担なども決定するように仕掛けをデザインしました。
評価しあうことが、共通ゴールの認識と納得性をうむ
4.伝える、ふりかえる
プレゼン発表
最後のふりかえりは自己対話の静かな時間
3回目の授業は、前回と同じ形式でプレゼンを行います。評価は、ブロック代表を相互評価の総合点数で決定します。
授業後半には、プロジェクトで取り組んだ体験を経験・学び・能力に変えるふりかえりの時間を設け、終了しました。ふりかえりの中では、プロジェクト後のセルフアセスメント(自己評価)も実施しました。
実行委員会とメンバーで協議し追加した「菅公賞」(副賞としてクリアファイル実物作成、本記事でのインタビュー)は、当協議会・菅公学生服株式会社のファシリテーターでルーブリックを活用し、選定後、学校での発表となりました。
初回に説明した評価基準
評価シールが貼られた模造紙
生徒の反応(ワークブックから抜粋)
Q.プロジェクトを通じて、自分の変化や成長、発見したことは?
・1回目の説明会の時は模造紙はすぐに完成するだろうと思っていたけど、実際はそんなにうまくいかなくて時間を使うことの難しさを改めて感じた
・普段話さない人とどんな風にすれば相手に喜んでもらえるかなど考えるのがとても楽しかった
・相手の目線にたって考えることがどれだけ難しく大変なのかを改めて実感した
・ターゲットの気持ちに寄り添えたと評価してもらえたので寄り添えていたんだと思いました
Q. この体験を、今後どんな風に活かしていきたいですか?
・自分の意見やアイデアを求められた時にはっきり発言できるようにしたい
・独自性のある発想を生むために日頃から自分の中でのオリジナルさをみつけ、育てていきたい
・大学受験の時や、就職のときに自分の意見が言えるよういかしていきたい
プロジェクトでの生徒の変化をどう測るのか
学力では測れない“非認知能力”の傾向分析ツール
当協議会と岡山大学 中山芳一准教授で協働開発している“非認知能力”の傾向分析ツールを活用し、事前事後の生徒の意識や資質・能力がどのように変化したかを調査しました。
プロジェクト前と後に、10項目の非認知能力に関してセルフアセスメント(自己評価)を実施し、学びをデザインして終わりではなく、変化を可視化し、次にどう活かすかを個人やまわりで生徒や先生と話せる状態を目指しました。「なぜそうなったのか」「こういった行動や仕掛けがよかったのでは?」「次はここを高めたい」など、ふりかえりに活用しました。
セルフアセスメントの傾向分析シート
定性分析に活用するワークブック
今回は、プロジェクト前後で「構想力」「行動力」「創造力」「探究力」などの非認知能力である資質・能力が高まったと自己評価する生徒が多い傾向となりました。すべての資質・能力を高めることが理想ではなく、生徒や先生、関わる外部人材が自分をふりかえり、自分の行動やまわりと協働する行動につなげるきっかけづくりに活用することを理想としています。引き続き、生徒と先生など関わる方々と研究実践を重ねていきます。
いかがでしたか? 関連記事では、様々な立場から教育やこれからについてお話いただきましたので、ぜひご覧ください。
本プロジェクトに関するお問い合わせは、上記お問合せフォームよりお気軽にご連絡ください。
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(撮影 / 桑原 愛那、取材・ライティング / 北浦 菜緒)
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