2023.06.28 先生向けコラム 探究学習のテーマはどう設定する?興味が湧く面白いテーマ例をご紹介

目次
1 探究学習とは

2 探究学習のよくある課題点
 2-1 探究のプロセスを「自分事」として捉えてもらえるか
 2-2 どのように指導すべきか
 2-3 身近な課題をどのようにして見つけてもらうか

3 テーマ設定のポイント
 3-1 日常生活や学校生活での身近な課題から考えてもらう
 3-2 答えの広さ・深さが十分に確保できるテーマを設定する
 3-3 先生自身が「分からない」「知らない」ことを恐れない

4 テーマ例
 4-1 多角的・多面的視点を持って地域医療の魅力を再発見しよう(別府溝部学園高等学校看護科)
 4-2 地域貢献イベントを企画し、提案しよう(別府溝部学園高等学校普通科)
 4-3 これからの日本はどうあるべきか、理想の日本について考えよう(明豊高等学校普通科特別進学クラス九大専科)
 4-4 フィールドワークで地域の課題を解決しよう(お茶の水女子大学附属高等学校)
 4-5 地域の福祉課題をまとめた『福祉マップ』を作ろう(北海道文教大学研究)

5 まとめ

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・探究学習のテーマをどのように設定すればよいのだろう?
・どうすれば生徒が自ら「問い」を立てられるようになるのか?

上記のような悩みを抱えていませんか?

この記事では、探究学習のよくある課題点や課題解決に向けたテーマ設定のポイント、具体的なテーマ例をご紹介します。本記事を通じて、生徒にとって興味が湧くテーマ設定のヒントにしていただければと思います。

※1探究学習…本記事では高等学校の「総合的な探究の時間」での学習のことを示します


1 探究学習とは

探究学習とは、生徒が自ら課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析し、周囲の人々との協働を通じて学んでいく活動のことです。とくに大切な要素として「生徒が自ら課題を設定する」点が挙げられます。

生徒が自分自身の進路や人生と切り離すことなく、課題を発見し、主体的に活動することが理想ではありますが、「活動を深められない」「探究ではなく、調べ学習になってしまう」といったお悩みをお聞きすることも少なくありません。「生徒自身が自ら課題を設定すること」そして、「活動内容の質」のバランスを現場の先生方は考えられているのではないでしょうか。

2 探究学習のよくある課題点

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探究学習に取り組むにあたって、さまざまな課題が浮かび上がってくるケースは少なくありません。よくある課題点として、次の3つが挙げられます。

・課題1:探究のプロセスを「自分事」として捉えてもらえるか
・課題2:どのように指導すべきか
・課題3:身近な課題をどのように見つけてもらうか

それぞれの課題について、解決につながるヒントを見ていきましょう。

2-1 探究のプロセスを「自分事」として捉えてもらえるか

探究学習において、生徒が自ら課題設定をすることは重要ですが、「課題を見つけてみよう」となると、社会課題や地域課題を大きなことから考えがちです。「自分のミッションは何か」という言葉を変化させることで、分かりやすく、「自分事」として考えることができるのではないでしょうか。まずは「ミッション」ありきでテーマを設定すると良いかもしれません。

ミッションが見つかっていない状態でテーマだけを掲げたとしても、探究のプロセスは生徒本人との関連がなくなってしまいます。自分にとってのミッションをいかにして見つけ、自分事として捉えてもらうかが探究学習の効果を高める上で重要な鍵を握っているのです。

2-2 どのように指導すべきか

探究学習は従来型の授業とは進め方が大きく異なるため、どのように指導すべきか悩まれている先生もいらっしゃるかと思います。実は、先生が「指導しなくてはならない」というスタンスで臨んでしまうと、探究的な学習を妨げる恐れがあるのです。

生徒が自らのミッション達成に向けて探究していくプロセスにおいて、先生は生徒と同じ目線に立つことが求められます。生徒に知識を与え、調べ方・考え方を教えようとするのではなく、伴走者となって共に探究していくことが大切です。

2-3 身近な課題をどのようにして見つけてもらうか

ミッションを掲げ、課題を発見するプロセスに多くの生徒は慣れていません。探究学習では「問い」を立てることが重要とされているものの、そもそも「問い」を立てること自体が生徒にとって容易ではないのです。

探究学習に取り組むにあたって、まずは「問い」を立てる練習からはじめる必要があります。探究学習の時間だけではなく、教科での探究や、部活動や日常生活の中のふとした疑問を大切にする意識が第一歩になるのではないでしょうか。


3 テーマ設定のポイント

探究学習のテーマを設定するにあたって、次の3点に留意して授業を計画して進めましょう。

3-1 日常生活や学校生活での身近な課題から考えてもらう

探究学習の「課題」を探すとなると、現代社会や世界情勢といった大きな視点で捉えがちです。しかし、生徒にとって重要なステップは「どのような課題があるか」を自分の頭で考えることです。普段は何気なく見過ごしている物事を課題として切り出し、なんらかの手段によって解決できるのではないか、と捉える感覚を掴んでもらう必要があります。

はじめのステップとしては、日常生活や学校生活での身近な課題から考えてもらうほうが現実的です。不便に感じている事柄や必ずしも現状通りでなくてもよい物事が身近に数多く隠れていることに気づき、課題を抽出するプロセスを体験することが大切です。高校生の目線で考えた場合、身近な課題としては「テスト勉強がはかどらない」「スマホを長時間使用してしまう」「周囲の目が気になる」など、まずは個人的な「困りごと」を課題として挙げてもらいます。

3-2 答えの広さ・深さが十分に確保できるテーマを設定する

テーマを設定するにあたって、答えや結論がすでに分かっている問いを設定していないか確認する必要があります。特定の結論にたどり着くために情報を収集するのは「調べ学習」となってしまいます。調べ学習を通じて知識を増やすことはできても、生徒が自ら課題を設定し、解決していくプロセスを体験するには十分とはいえません。

探究学習のテーマ設定では、しばしば生徒にとって興味のあるテーマを取り上げる必要性が説かれます。しかし、興味があることに対して生徒がすでになんらかの意見を持っているケースは少なくありません。現状の意見や考えをまとめるのではなく、探究するプロセスを学んでもらうことが大切です。立てた問いに対して、「調べれば分かること」「YES/NO」で答えられないなどの判断基準があればよいかもしれません。

3-3 先生自身が「分からない」「知らない」ことを恐れない

設定するテーマによっては、先生にとって専門領域外となるケースも少なからず出てくるはずです。学習の過程で生徒から質問を受けた際、答えられないのではないかとの懸念もあるのではないでしょうか。

しかし、探究学習において、先生自身が「分からない」「知らない」ことがあるのはむしろ自然な状態といえます。もし分からないことがあれば生徒と一緒に考え、共に探究していくスタンスで臨むことが大切です。先生は「教える」というスタンスで臨むのではなくファシリテーションに徹することで、生徒が主体の授業をつくれます。

また、必要に応じて外部の方に力を借りるといった手段もあります。テーマに関わりの深い分野の専門家や民間企業を招くことによって、生徒が新たな知見に出会うこともあるでしょう。探究学習のテーマ設定を先生だけの力で乗り切ろうとするのではなく、外部の知見を取り入れるのも1つの方法です。



4 テーマ例

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探究学習の具体的なテーマ5例をご紹介します。生徒の興味・関心、教師の願い、教材の特性などのバランスを考え、テーマ設定を行っています。各テーマの背景や課題、実際の活動とのつながりをぜひ参考にしてください。

4-1 多角的・多面的視点を持って地域医療の魅力を再発見しよう
(別府溝部学園高等学校看護科)

【教師の願い】
都市部の医療機関が就職先として選ばれやすい中、地域医療の魅力を再発見し、看護のあり方や医療従事者としての心構えを生徒自身の言葉で語れるようにしたい。

【課題】
患者さんの課題を解決できる魅力ある病院を紹介しよう!

【設定したテーマの一例】
・第二の人生に寄り添う病院~貴方に幸せと安心を~
・あなたの健やかな生活を支える病院~患者に寄り添った安全な医療を~
・地域の安心と笑顔を守る医療と福祉の紹介

【結果】
現役の看護師から医療現場の実情や看護師としての心構え、必要とされる資質能力など、実践に必要な教訓を得たことにより、地域医療の重要性に対する理解を深めることができた。

4-2 地域貢献イベントを企画し、提案しよう(別府溝部学園高等学校普通科)

【教師の願い】
地域の方々から感謝されることをきっかけに、自己肯定感と他者を気遣う気持ち、行動を起こす自信を生徒に持ってもらいたい。

【課題】
地域の人たちがよろこぶイベントを企画して、提案しよう!

【設定したテーマの一例】
・餅ヶ浜海浜公園ビーチクリーンイベント
・高齢者が高校生と時間を一緒に過ごすイベント
・体験型地獄めぐりイベント
・デフスポーツイベント

【結果】
グループワークを通じて自分の考えを持つことの大切さや、他者を思う気持ちを持つことができた。

4-3 これからの日本はどうあるべきか、理想の日本について考えよう
(明豊高等学校普通科特別進学クラス九大専科)

【教師の願い】
理想の国づくりについて考えることを通じて、社会課題の解決を自分事として捉えてもらいたい。

【課題】
チームごとに政府となり、マニフェストに沿って「理想の日本」の国づくりに取り組む。

【設定したテーマの一例】
・未来の創り手を育成するため、教育活動の強化
・お家芸であるモノづくりの再編による経済活動の強化
・健康で豊かな生活の実現を目指す

【結果】
チームでの協働を通じて他者の「理想」に耳を傾けることを学んだ。また、国の課題を自分事として捉え、具体的な解決策を模索する重要性を知ることができた。

4-4 フィールドワークで地域の課題を解決しよう(お茶の水女子大学附属高等学校)

【教師の願い】
フィールドワークを通じて地域の特徴や課題を発見し、解決方法を模索する体験から「課題を追究すること」の意味を掴んでほしい。

【課題】
地域の情報や地理的特徴を収集し、地域の社会的な課題を見つけて解決策を考える。

【設定したテーマ】
・地域課題の解決

【結果】
さまざまな立場や集団、役割の方々に聞き取り調査を行ったことにより、課題を多方面から捉え、多角的な解決策を考えることができた。また、フィールドワークのマナーや進め方、報告会でのプレゼンテーションなど、探究学習で求められる技能・表現の基礎力を高めることにつながった。

4-5 地域の福祉課題をまとめた『福祉マップ』を作ろう(北海道文教大学研究)

【教師の願い】
地域が抱えている課題は「福祉のまちづくり」と生徒が捉えていたことから、地域福祉の推進に役立つ取り組みを考えた。

【課題】
自分たちが住む地域を福祉の視点から捉え、調査結果をまとめる。

【設定したテーマ】
・地域を福祉の視点で捉えた「福祉マップ」の作成

【結果】
歩道の段差など高齢者にとって歩行に支障をきたす可能性のある箇所を撮影し、手作りのマップに落とし込んでいった。市職員や社会福祉協議会職員、民生委員などから構成される「まちづくり協議会」にて福祉マップを活用したプレゼンテーションを行ったことにより、駅構内のスロープや点字ブロック設置などの補修が決定した。


5 まとめ

探究学習においてテーマ設定は悩ましい問題の1つですが、生徒が主体となって課題を発見し、テーマを設定できるよう導いていくことが重要です。今回紹介したポイントや事例を参考にしていただければと思います。

カンコーマナボネクトは、カンコーのグループ企業として、これからの時代に必要な生きる力を育む授業の支援だけではなく、学校や地域の教育をサポートするさまざまな探究プログラムをご提案しております。探究学習のテーマにお困りの際には、カンコーマナボネクトへお気軽にご相談ください。
 

カンコーでは、学校現場や子どもたちの未来を先生方とともに考え・共有する場として、「Teacher with」というサイトを運営しています。先生方の日々の業務にご活用いただける動画や記事、ダウンロード資料もご用意しています。
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[記事作成日]2023/6/28


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