2023.02.23 先生向けコラム 部活動地域移行とは。部活動改革のカギを握る“地域移行”の先行事例をご紹介
長年にわたる学校教育の中で、部活動は重要な位置を占めてきました。また部活動は生徒の体力向上や人間関係の構築にも、大きく貢献してきました。
ところが現在、社会の変化に合わせる形で、部活動の在り方が変わりつつあります。その流れに沿ってスポーツ庁や文化庁、文部科学省が中心になり、「部活動改革」の推進が始まり、今後さらに取り組みが進むことが予測されます。
具体的には、部活動の地域移行や、教員の働き方改革が行われることになりますが、こうした取り組みが教育現場にどのような変化をもたらすのでしょうか。部活動改革の概要のほか、先行的に部活動の地域移行に取り組んでいる地域部活動推進事業モデル校の事例も含めてご紹介します。
目次
1 部活動の動向と意義
1-1 部活動の動向
1-2 部活動で育まれる力
2 部活動改革にともなう地域移行の現状・課題
2-1 部活動改革を推進する流れ
2-2 部活動の地域移行とは?
2-3 部活動の段階的な地域移行
2-4 部活動の地域移行での変化は?
3 先進的な試みの事例紹介
3-1 岡山県での具体的な取り組み事例の紹介
3-2 取り組みから見えてきたメリットと今後の課題
1 部活動の動向と意義
1-1 部活動の動向
平成29年に文部科学省(スポーツ庁)が実施した「運動部活動等に関する実態調査」によると、およそ10年以上の間、中学生・高校生の部活動参加率はほぼ横ばいであり、運動部への参加率が高い状況でした。中学校での部活動は平日が2時間程度で、土日祝は3時間程度、また休養日については、週に1日が50%を超えて最も多く、土日祝に休養日を設けていない学校が40%を超えていました。
この調査によると、教員が部活動にかかわる時間は増加傾向にあり、勤務時間外の指導を含めると長時間勤務が常態化していることが見られます。
こうした背景により、平成30年スポーツ庁から「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が発表されました。運動部活動の適切な運営のための体制整備、合理的かつ効率的な活動推進のための取り組み、適切な休養日の設定など具体的に示されました。
また、令和2年度には「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」が発表され、持続可能な部活動の推進と教員の負担軽減を両立できる取り組みが動き始めました。
学校での運動部活動の休養日は平日1日、土日(週末)1日は休養日と設定され、また日本中学校体育連盟も、全国中学校体育大会への参加資格緩和を検討中で、今後は地域のスポーツクラブなど、民間団体の参加も認める方向で協議がなされています。
1-2 部活動で育まれる力
ここで、中学校と高校の学習指導要領から、部活動の意義を抜粋し、再確認したいと思います。本来の部活動のあり方とは、主に以下に挙げるような内容に基づくものです。
・生徒の自主的、自発的な参加により行われる
・学習意欲の向上や好ましい人間関係の構築に貢献する
・学校教育の一環として行われる
・実状に応じて、地域の人々や各種団体との連携を行う
このように本来の部活動では、教育の一環として生徒をスポーツや文化・科学に親しませ、自己肯定感・責任感・連帯感などを養いながら、学習意欲やコミュニケーション能力を向上させることを目標にしています。
2 部活動改革にともなう地域移行の現状・課題
2-1 部活動改革を推進する流れ
学校の働き方改革を踏まえた部活動改革によると、今後は令和5年から段階的に、以下の基本的な方針を実施することになっています。
1)適切な部活動運営のための体制整備
2)合理的で効率的な部活動への移行
3)適切な休養日と活動時間の設定
4)生徒のニーズを踏まえた部活動環境の整備
5)学校単位で参加する大会等の見直し
これらの方針に沿って、まずは部活動の指導と運営に関わる体制を構築するとともに、今までよりも合理的な運営へと徐々に移行します。
こうした基本的な方針に従い、さらに教員の負担を軽減するために検討されているのが、部活動の地域移行です。この改革が教育現場に最も大きな影響を与えると考えられます。
出典元:スポーツ庁「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」(令和2年9月)
2-2 部活動の地域移行とは
「部活動の地域移行」とは公立中学校における休日の運動部の部活動を外部に移行する部活動改革の1つです。
これまで教員が受け持っていた休日の運動部の部活動の指導を地域のスポーツクラブや民間企業、競技団体など、外部の団体に移行する改革です。
移行先では複数の中学校で集まることが可能となります。
文部科学省は、2025年度までに段階的に移行を進め、早期実現を目指す方針を示しています。
2-3 部活動の段階的な地域移行
部活動の地域移行は段階的に進められる予定です。まずは部活動を大きく二つに分け、平日は教員が指導を行う「学校部活動」になり、土日の運営が地域人材による「地域部活動」に変わります。
ただし、土日の地域部活動についても、全国で一斉に仕組みを転換するわけではなく、あくまでも段階的に移行を図ることになります。実際には令和5年以降に、少しずつ体制を整備することになるでしょう。
出典元:スポーツ庁「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」(令和2年9月)
2-4 部活動の地域移行での変化は?
上記スケジュール通りになれば、次の変化がおこるのではないかと予測されます。
・教員の部活動は兼職・兼業化
・外部指導員の増加
・部活動加入率が低下し、スポーツ団体・クラブチームなどへの加入の増加
・スポーツ団体・クラブチームへの加入に関わる保護者の費用負担
・地域格差(地域によって団体数が異なるため)
・スポーツ大会の減少
・スポーツ大会運営の人員不足(中体連の大会は教員が審判など、大会運営していたため)
3 先進的な試みの事例紹介
実際に部活動を地域移行すると、いったいどのような変化が起きるのか、ここでは地域部活動推進事業モデル校、岡山県赤磐市立磐梨中学校の事例を紹介します。
3-1 岡山県での具体的な取り組み事例の紹介
岡山県の中南部、岡山市に隣接する赤磐市にある赤磐市立磐梨中学校は、伝統的に部活動が盛んな学校です。この磐梨中学校は、2021年度に地域部活動推進事業モデル校に指定され、現在も先行してその取り組みを進めています。
同校では6つの運動部と2つの文化部が活動しており、2021年度は2名の部活動指導員※と、30名の地域指導者の協力のもと、部活動の地域移行を進めました。現在は39名にまで増員された地域指導者が活動しています。
※部活動指導員・・・大会引率が可能である指導員。外部指導員や地域指導員は大会引率不可。
従来より同校では、地元の道場(磐梨武道館)が中心になって柔道部と連携し、部活動を運営していました。学校と地域とのつながりが深く、クラブチームやスポーツ少年団など、学校外でのスポーツ活動も盛んだったため、こういった活動を基盤・モデルとし、部活動の地域移行化を進めました。
土日の指導は基本的には部活動指導員、地域指導者に任せており、教員は平日放課後の部活動を指導しています。教員の間では当初賛否両論ありましたが、共働きや介護に関わる教員にとっては、生活上の負担が少なくなったことが大きなメリットになったようです。
3-2 取り組みから見えてきたメリットと今後の課題
実際に地域移行を進めてみると、生徒たちの活動に多くの人が関わるようになったことが、最も大きなメリットになり、部活動全体が以前よりも盛んになったそうです。
地域指導者の皆さんは、休日の部活動で都合のよい日に来るというスタイルです。専門的な技術指導をするほか、生徒と一緒になってスポーツや文化を楽しむなど、さまざまな関わり方があり、働き盛りの30代~40代の、農業や自営業などの人たちが自由になる時間を調整しながら参加しています。
多くの地域指導者が指導に当たることは、指導の質を高めるという効果を生み出しました。同時に生徒一人ひとりに対して、きめ細かい指導も可能になりました。また、指導者が1人ではないということから、相談する相手がいることは心理的負担の解消にも繋がっているそうです。行き過ぎた指導も多くの目があることで、少なくなるのではないかというお話もありました。
野球部では、指導者が知人を連れてきて、生徒と一緒になって試合をするなど、以前とは違った形での盛り上がりを見せているそうです。
吹奏楽部では、自宅では思い切り楽器を演奏できないという地域の方が、生徒と一緒になって部活動という場で音楽を楽しんでいる姿が見られました。指導という枠にとらわれない形が地域交流も生み出しているそうです。
また、地域指導者への移行が進み、朝練をなくしたことにより、朝は比較的ゆっくり出勤する先生が増え、バスケットボール部では放課後も地域指導者が参加することで、教員には時間的な余裕が生まれています。
しかし、朝練については、生徒や保護者から希望する声が多く、持続可能な方法として考えられたのが、地域部活動として実施していく道でした。現在は、短い朝練の時間は技術的なことを練習するのではなく、基礎的な練習に変換し、さまざまな部活動が合同で練習しているそうです。
一方で、いくつかの課題も浮かび上がってきました。まず、美術部のように、絵画や彫刻、創作など指導の幅が広い部活動では、特別な知識をもった指導者が必要となり、対応が難しい場合があります。
ほかの部活動でも、積極的に地域で協力してくれるコミュニティが必要で、特に全体の中心になって部活動を支えてくれる人材が欠かせないといいます。
そしてもう一つの大きな課題が、部活動の活動費用の確保です。現在、磐梨中学校では保護者への費用負担はなく、大部分を地域部活動推進事業の補助金でまかなっています。来年度からは補助金はカットとなるため、地域や企業から寄付金を募るなど新しい仕組みづくりが必要になるということでした。個人や企業から寄付を募るなどの新しい仕組み作りが必要になるでしょう。この点でも、地域全体での支援が必須だといえます。
こうした課題に向き合いながら、磐梨中学校では部活動を軸にした地域の活性化も目標にしています。部活動が盛んになることで、ほかの地域から入学を希望する生徒が増えれば、地域移住などにつながる可能性もあります。
いずれは地域部活動だけではなく、学習支援ボランティア、学校行事ボランティア、大会・コンクールへの参加、地域貢献などを含めた磐梨型地域連携へと発展させる計画もあるそうです。
4 生徒のために何ができるのか?
出射校長によれば、実際に地域移行を進めてみると、仕組み作りなどでさまざまな課題が出てきたといいます。しかし生徒たちの周りに、部活動を一緒に盛り上げたいという人がいること、そして、子どもたちのためにできることを考えれば、問題は何とかなるというのが実感だそうです。
今後は高校野球の甲子園出場のように、地域全体で子どもたちを応援して、それを地域活性化にもつなげる「磐梨Dream Town プロジェクト」の構想も語ってくれました。部活動を通じて地域全体が盛り上がる、そんな未来がこの先に見えてくるかもしれません。
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