2018.03.22 先生向けコラム リアルな体験が「考える脳」をつくる【後編】

第4次産業革命をはじめ、急激な社会変化の過渡にある現代。子どもたちが未来の社会を生きるためには、創造性、主体性などを育てることが重要になります。これらの力を養うには、いかに中高生の時期に“リアルな体験”から知識や経験を得るかがカギとなります。子どもたちの「自ら考える力」をいかに育むべきか、脳機能開発研究の第一人者である東北大学・川島隆太教授にお聞きした内容を全2回に分けてご紹介します。後編では脳科学の視点からこれからの教育について語っていただきます。

やる気を高める即時フィードバックを応用して

   学ぶ意欲の向上に有効なのが、「即時フィードバック」。子どもが何かに取り組んで達成した、うまく出来た時にすぐに反応して、褒める・評価することは、子どものモチベーションを高めるとともに、主体性や自主性を育てる上で重要だと考えられています。

 子どもと1対1の場合ならば、すぐに反応できても、マスの教育現場で、すぐに反応して評価するということは難しい面もあります。しかし、誰でも褒められればうれしいものであり、それが更なるモチベーションを引き出すことにも。部活動でも厳しく指導するだけでなく、褒めて伸ばすことで、やる気だけでなく、パフォーマンスの向上にもつながるのではないでしょうか。教員は即時フィードバックを自分なりに応用して、教育の場で活用できれば、より学ぶ意欲を引き出せるでしょうね。

学校教育や部活動は、大学や地域のリソースが有効

 さまざまな体験や経験は、クリエイティブな思考を育てる上では欠かせないものですが、他者と交流しコミュニケーションを取る、実際に足を運び仲間とともに汗をかくといった“リアルな体験”でなければなりません。リアルな体験は知性を大きく育てます。特に脳が強く発達する中高生の時期に、多くの体験をさせたいものです。

 本来、体験活動は家庭や地域が役割を担うものですが、家庭・地域ともに教育力が大きく低下している現状、学校教育で体験活動を実践することは、子どもたちと社会をつなぐ上でも、意義のあることです。しかし、教員の負担も考えれば、体験活動や部活動は、地域の人など学校外の大人の助力も考えていかなければならないでしょう。

 特に部活動は社会体育の活用も検討してみることも大切。部活動を地域に委ねられれば、教員の負担軽減にも寄与でき、子どもたちの異年齢交流や地域社会を知るきっかけにもなります。リアルな体験は学校と地域が手を携えながら行うことで、より実りのあるものになるのではないでしょうか。

 また、教員の働き方改革が注目される中で、授業などにも学校外の人材が持つリソースを活用することができれば、教員の負担を軽減する一つのアイデアになると考えています。例えば、生徒にテーマを与えて考えさせるという授業を行うとき、教員がそのテーマのエビデンスやデータを自ら収集して準備するというのは、大きな負担になります。そういう時は、地域にいる大学教員を大いに活用してほしいですね。大学にはさまざまな研究があり、データも豊富です。そういった研究を社会のために活用することも、大学の一つの使命でもあります。

 また大学教員が中高生に、自分の研究を講義することは、研究者をステップアップさせる貴重な機会。生徒に分かりやすく説明するためにはどうすればいいかと考えることは、新たな研究の可能性を見出すチャンスにもなります。大学教員を学校教育で活用することは、子どもたちの考える力を育てることに有効であり、且つ学校教員の負担軽減にもつながる。そのうえ研究者の成長にも貢献できる。このように地域や大学など学校外の人材をうまく学校教育に取り入れることは、教育全体に好影響を与えてくれるのではないでしょうか。

 地域や大学など学校教育に利用できるものは、積極的に取り入れて利用する、それが教員の仕事を効率化するうえで一番だと考えています。地域にはさまざまな人材や知的財産が眠っています。少し視線を学校外に向ければ、子どもにも教員にも有益なリソースを見つけることができるかも知れません。

本を読む習慣は、脳の発達に直結している

 学校教育では、さまざまなことが変わりつつありますが、基礎基本をきちんと子どもに教えることは重要で、変わらず続けてもらいたいことです。読むこと、書くこと、生活リズムを乱さないことなど、そうした基本を確実に身に付けさせることが、脳の発達にはもっとも良いと脳科学では示されています。

 特に本を読むことは、文字情報から自分でストーリーを組み立てて、それを記憶しながら展開しなければならないため、考える力をもっとも発達させることができます。本を読むことは、実はとても難しいことなので、中学・高校の時期に、読書の習慣を身に付けさせてあげることは大切です。こうした基礎基本を教え、頭を使うことは、子どもたちの未来の幸せへと直結しているのです。

子どもたちとともに考えることができる「考える教員」を目指して

 基本的生活習慣や本を読む習慣を身に付けさせること、体験活動でリアルな体験をさせることなどが、子どもの自ら考える脳を育てるために必要だと述べてきましたが、もう一つ必要なものがあります。それは「考える教員」の存在です。創造性の高い子どもを育てたくても、指導者に考える力がなければ、クリエイティブな子どもは育ちません。現状では、教員は多忙で何かを「考える」時間的余裕が少ないのが実情です。

 教員の多忙を解消するには社会全体での体制づくりが必要ですが、身近にできる取り組みとしては、やはり学校と地域との関わりをさらに深めることではないでしょうか。地域が学校教育の一翼を担えば、教員にも時間的余裕が生まれ、考える余裕ができる。

 そして子どもだけでなく、教員もともに考えることが大切です。例えば、基本的生活習慣やスマホのリスクの問題は、科学的エビデンスを使いながら、教員もともに考えてもらいたいですね。教員が考えられるようになれば、指導方法を工夫しようと思えるようになり、それが学校教育の質を上げていく。教員と考え合い、学び合うことができれば、子どもたちの脳も刺激され、考え抜く力が自ずと養われていくと思いますね。
(取材 / 川田 達彦)



◎プロフィール
東北大学 加齢医学研究所 所長
川島 隆太  教授(かわしま・りゅうた)

東北大学加齢医学研究所所長。東北大学大学院医学系研究科修了。スウェーデン王国カロリンスカ研究所、東北大学加齢医学研究所助手、講師、教授を経て、2014年より現職。人間の脳の働きを画像として計測する脳機能イメージング研究の日本における第一人者。脳科学の知識と技術を用いた「教育」の研究をはじめ、「教育」に脳科学のメスを入れる。


 

「カンコーは、子どもたちの夢と学びを応援しています」

※本稿は、(一社)カンコー教育ソリューション研究協議会からの業務委託により、菅公学生服株式会社がお届けする学校現場のお悩み解決を目的とした教育関係者様向け情報誌 『カンコータイムズ』 を基に加筆した記事です。

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