2018.03.21 人づくり・現場指導 リアルな体験が「考える脳」をつくる【前編】

第4次産業革命をはじめ、急激な社会変化の過渡にある現代。子どもたちが未来の社会を生きるためには、創造性、主体性などを育てることが重要になります。これらの力を養うには、いかに中高生の時期に“リアルな体験”から知識や経験を得るかがカギとなります。子どもたちの「自ら考える力」をいかに育むべきか、脳機能開発研究の第一人者である東北大学・川島隆太教授にお聞きした内容を全2回に分けてご紹介します。前編では人間らしく生きる力について、脳科学の視点から語っていただきます。

人間らしく生きる力は、未来の社会を生き抜くカギ

 

 将来、人工知能(AI)が社会で本格的に導入されると、私たちの仕事の多くはAIに肩代わりされることになります。そうした社会の中で、人間に求められる仕事は、AIより優位である、何か新たなものを生み出す力、創造性が試されるものが中心になってくるでしょう。つまり「解のない問題」に取り組み、それを考え抜く力が、これからの社会を生きる子どもたちには必要になります。

 人が解のない問題を考える時、脳の「前頭葉」の言語領域、「側頭葉下面」の知識領域を使い、さまざまな学びや経験から得られた知識のデータベースから情報を引き出し、それを言語化して答えを導き出します。解のない問題を考え抜く力を養うためには、こうした脳の部分を発達させなければなりません。多種多様の知識を教え、それを自ら言葉で表現できる能力を身に付けさせることが大切です。

 そのためには、まず読書ができる能力を育てるとともに、体験活動や部活動などを通じて、社会を知るリアルな体験をさせることが重要になります。特に思春期である中学・高校時期は、思考や創造などを司る脳の「前頭前野」が非常に強く発達するスイートスポットなので、できるだけ多くの知識を入れ、さまざまな体験を積ませることが、脳を大きく発達させます。「自分で考える力」とは、「人間らしく生きる力」、これを身に付けていくことが、これからの社会を生き抜くカギとなります。

超高齢社会は賢く老いるスマート・エイジング

 AIの社会導入とともに、子どもたちが直面するのが「超高齢社会」。彼らは同胞の数が圧倒的に少ない中、大多数の高齢者たちを支えなければならない、(いびつ)な社会を生きなければなりません。そうした社会では、高齢者がいかに活力を持って生きるかによって、社会全体の成長も左右されます。

 老いることを否定的に捉えるのではなく、ポジティブに捉え賢く生きていくこと、それが私たちの提唱する「スマート・エイジング」の考え方です。われわれは「年を取る=悪いこと」と後ろ向きに考えがちですが、一方で、年を取ることは「成長」することでもあります。年を重ねれば物事の見方が深まり知的に成熟するなど、高齢期でも人間としての成長は続いているのです。老いに(あらが)い、否定的に生きるよりも、老いを受け入れ、いかに豊かに賢く生きていくかを考えることは、若い世代にも活力を与えるでしょう。

 子どもたちに超高齢社会をどう生きていくかを考えさせることも大切ですが、私たち大人たちもどのように生きていくのかを、ともに考えることは必要でしょうね。

 

学ぶ意欲の源泉は、基本的生活習慣

 学習や体験からさまざまな知識を学ばせるためには、学ぶ意欲を高める必要があります。これまで小中学生を中心に調査・研究を行ってきましたが、そこから見えてきたものは、学ぶ意欲には基本的生活習慣が大きく影響していること。特に食習慣は影響が強く、一日三食をきちっと食べている子どもと、そうでない子どもでは、学力に大きな差があり、基本的生活習慣の乱れが学力や学ぶ意欲を大きく引き下げるリスクがあるという科学的エビデンスが得られました。

 生活習慣は学ぶ意欲の源泉であり、子どもたちの生活習慣を見直すことが、意欲を向上させる最善策です。「努力しても自分に返ってこない」、生活習慣の乱れは、そういった状況に陥る危険性をはらんでいます。

 いかに子どもに基本的生活習慣の重要性を認識させるかが、思案のしどころですが、私は科学的エビデンスに裏付けられたデータを活用して、子どもに“考えさせる”ことで、リスクを理解させることがもっとも良いと考えています。

 例えば学級活動やホームルームなどの時間を活用し、基本的生活習慣について生徒と教員がともに考える機会を作るといいでしょう。科学的データを用いてリスクを示し、いま自分の置かれている状況はどうなのかを振り返えらせ、生活習慣の乱れによる、自分の人生への影響を考察させる。現状に問題があればソリューションを探らせる。自分で考え、選択することで、子どもたち自身が問題意識を持ち改善に取り組めると思います。また積極性や主体性を養うことにも自然とつながっていくのではないでしょうか。

スマホの長時間使用は、脳の学ぶ機能を低下させる

 生活習慣とともに学力や学習意欲に影響を与えるものとして、スマートフォンの長時間使用の問題があります。近年ではこのリスクについて科学的データも多く発表されています。

 スマホの恐ろしいところは、複数の事を同時に行う「マルチタスキング」であること。勉強しながらSNSをしたり、ゲームをしたりできるため、勉強はおろかSNSにも、ゲームにも集中できない状態に陥り、集中力を大きく押し下げると懸念されています。私たちの研究でも、スマホを併用して勉強することで、学習が定着せず、学力を低下させる恐れがあることが分かってきました。スマホ使用の改善は、喫緊の課題です。

 まず「言って聞かす」よりも、「考えて自分の問題として認識させる」ことが改善に向けた一歩だと考えます。リスクの科学的根拠を子どもたちに示し、スマホを使う理由や、将来への影響など、リクスとベネフィットを考えさせ、どのように使用すればいいかを検討させる。そして子ども自身が使用を抑制するセルフディフェンスにつなげることが大切です。
(取材 / 川田 達彦)


◎プロフィール
東北大学 加齢医学研究所 所長
川島 隆太  教授(かわしま・りゅうた)

東北大学加齢医学研究所所長。東北大学大学院医学系研究科修了。スウェーデン王国カロリンスカ研究所、東北大学加齢医学研究所助手、講師、教授を経て、2014年より現職。人間の脳の働きを画像として計測する脳機能イメージング研究の日本における第一人者。脳科学の知識と技術を用いた「教育」の研究をはじめ、「教育」に脳科学のメスを入れる。


「カンコーは、子どもたちの夢と学びを応援しています」

※本稿は、(一社)カンコー教育ソリューション研究協議会からの業務委託により、菅公学生服株式会社がお届けする学校現場のお悩み解決を目的とした教育関係者様向け情報誌 『カンコータイムズ』 を基に加筆した記事です。