2016.09.30 先生向けコラム キャリア教育に求められること〝教える〟ことから〝育てる〟ことへ【前編】
「成長社会」から「成熟社会」へと、複雑多様化していく現代。
学校現場においても、これまでの正解を求める教育から、課題を発見し解決する力を養い育てる教育へと変換を求められています。新しい時代を生きていくために、今後子どもたちをどう育てていけばよいのか。
キャリア教育の要点や子どもたちに学んで欲しいことについてキャリア教育コーディネーター生重 幸恵さん、キャリアカウンセラー小島 貴子さんに対談していただきました。二回に渡ってお届けします。
キャリア教育の現状
生重 もともとキャリア教育の意義が問われるようになった背景には、ニートやフリーターの社会問題があります。学校を卒業して、そこから自分の役割を見つけて輝く人になってほしいのに、働きたくても働けないで社会で漂流している若者たちが実際に少なくない。
小島 そうですね。今、キャリア教育は第二次の職業意識教育に移行しつつあります。自分が本当にやりたいこと、進みたい道を自分で見つけてどう構成していくか、自らの生き方を自らがデザインしていく力をどう育てていくかが問われています。
生重 最初の頃の職場体験的な職業教育からの脱却を意味しますね。職業意識を持たせることは重要。だけど、働くための教育にはなっていない。
小島 知識を教えこむ、あるいは、指導という型にはめて“これをやってこい”という教育では立ち行かなくなってきているんです。自分の生き方を自分で決めるというのは、人からこうしなさいと言われてできるものとは違います。その人自身にしかわからないものなわけです。
だからそれぞれの自分にしかないオリジナリティーの部分を大事にさせて、自分で磨かせる。オリジナリティーに対して尊厳を与え持たせることが大事ですね。なんでもかんでも「最後まできちんと」と型にはめてしまうのではなくて、これから開花していく準備期間と捉えて、今の段階ではここまでしかできないけど、それでいいんだという構えが必要です。
働いて身を立てること
生重 人は「働く」ということを前提に生きていくわけですから、たとえば高校を飛び越えて、中学を出て、そのままその道のプロを目指し取り組む子がいてもいいと思うんです。高校に行かないという選択ができないために不幸なケースもあるのでは。
小島 そう。中卒の子の進路先として職業訓練校はとても大切だと感じます。職業訓練指導員をしていた当時、中卒から訓練校に進学する子どもがたくさんいましたけれど、今は全入学という形で、ほぼ全員が高校に上がります。でも高校でついていけない子の中には、その後も目的が定まらず就職できず道に迷ってしまうケースもあります。その一方で、漢字も満足に書けなかった子が、中学を出て職業訓練を受けて専門技術を身につけると、就職して立派に生きていくようになるんですよ。
生重 職能を身につけて現場に出て、そこで初めて必要な専門的な学術知識を身につけたいという意欲が高まる子もいるでしょう。そういう動機で学びを深化させていくのが、本来の流れではないかと思います。
小島 その通りです。でも残念なことに、今の教育システムは、学び直しのチャンスがなかなか得られない。
生重 さらに、みんながみんな大学へ進むことが、果たして本当に将来を輝かせることにつながるのかというところも最近議論されていますね。実際、大学を卒業しても就職できない若者がいる。中学を卒業して働いて身を立てる、という選択肢が取り上げられてしまうのはとても残念です。
小島 そうですね、職場教育は子どもに意識変化をもたらしますから。例えばあいさつがそうです。学校で注意されてもなかなかできなかった子が、職場に入ると即できるようになる(笑)。職場ではあいさつが出来ないとチームに入れてもらえませんから。あいさつは自分という存在と他者をつなぐための言葉であるということを本質的に理解させられます。
プロフィール
キャリア教育コーディネーター
生重 幸恵さん いくしげ・ゆきえ
特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長。一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会代表理事。文部科学省第8期中央教育審議会委員。PTA会長時代から学校の支援を積極的に行い、その経験により区内の他校PTA会長経験者と共にスクール・アドバイス・ネットワークを設立。全国の教育委員会・PTA等主催研修会で講師を務め、「学校支援」「地域活性化」のプロジェクトに参画。企業の教育支援活動の推進にも助力し、社員研修やフォーラム等を実施。企業の持つノウハウを学校授業につなげるためのプログラム開発を手がける。内閣府の地域活性化伝道師、第8期東京都生涯学習審議会委員、東京都社会教育委員など歴任。
キャリアカウンセラー
小島 貴子さん こじま・たかこ
東洋大学理工学部生体医工学科准教授。埼玉県人事委員会委員、一般社団法人多様性キャリア研究所所長。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)勤務。出産退職後、7年間の専業主婦を経て、 91年に埼玉県庁に職業訓練指導員として入庁。キャリアカウンセリングを学び、職業訓練生の就職支援を行い、7年連続で就職率100%を達成する。多数の企業で採用・人材育成コンサルタント及びプログラム作成と講師を務める。ラジオNIKKEI「小島・鈴木のダイバーシティ・プラットフォーム」放送中。二男の母。
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