2018.10.12 先生向けコラム これからの「学びの地図」 新学習指導要領のポイントを解説!
2016年(平成28年)12月に「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」が打ち出され、それをもとに、2017年3月に、幼稚園・小学校・中学校の新学習指導要領が、2018年3月に高等学校の新学習指導要領が公示されました。
出展:H29年3月公示 新学習指導要領
全面実施は小学校が2020年4月~、中学校は2021年4月~となりますが、2018年度(平成30年度)からそれぞれ移行期間に入ります。また、高等学校学習指導要領は、2019年度から移行期間に入り、2022年4月から年次進行により実施予定となっています。
近年はプログラミング教育や道徳教育の教科化など、既存の教科の改訂だけでなく、これまでになかった取り組みが次々と決定しています。これからの時代を「生きる力」を育てるためには、これらの変更点にも柔軟に対応していく必要があります。
では、今回の改訂では具体的にどのような点が変更されるのでしょうか。
学習指導要領は、「総則」の他、教科ごとに定められていますが、それぞれかなり文量が多くなっており、表現も堅くなりがちなため、読み通すのに大変な労力を要します。
そこで、新しく打ち出されたキーワードをヒントに、変更点の大まかなポイント、学校現場で行うべきことを整理していきます。
目次
1.社会に開かれた教育課程
1-1 社会との協働を図ることが目的
1-2 これまでの蓄積を踏まえて地域とつながる
2.カリキュラム・マネジメント
2-1 すべての内容を3本柱に集約
2-2 カリキュラム・マネジメントとは?
3.教科等横断、学校段階間接続の視点
3-1 教科等横断
3-2 学校段階間の接続
4.まとめ―「学びの地図」としての学習指導要領
1.社会に開かれた教育課程
1-1 社会との協働を図ることが目的
まず今回改訂では、構成上の大きな変更点として、第1項「総則」の前に「前文」が追加されました。
ここに書かれているキーワードが「社会に開かれた教育課程」と「キャリア教育」です。
「キャリア教育」については、今までも必要性は説かれてきましたが、はじめて「総則」の中でこの言葉が用いられ、その充実を図ることが示されました。 「社会に開かれた教育課程」と並んで、今回改訂の重要ポイントだと言えます。
※詳細は「キャリア教育」の別記事※一貫したキャリア指導が・・・へ
では、「社会に開かれた教育課程」とはどのようなことを示しているのでしょうか。
前文を一部要約して整理すると次のようになります。
◎これからの時代に求められる教育を実現していくために必要なこととは?
・「よりよい学校教育を通してよりよい社会を創る」という理念を学校と社会で共有すること。
・それぞれの学校で,どのように学び,どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを明確にすること。
・社会との連携や協働によりその実現を図っていくこと。
ここから読み取れることは、「学校と社会の協働」です。
教育を通してよりよい社会をつくるという目標を共有し、協力して教育を行っていくという仕組みをつくることが重要になります。
1-2 これまでの蓄積を踏まえて地域とつながる
あくまで「学校という場所の質」を上げようとしてきたこれまでから、地域社会を大々的に巻き込む方向にシフトチェンジするということです。今は学校の中だけですべてを完結させる時代ではありません。社会の中でよりよく生きる人間を育てるためには、学校を通じて社会を体感させ、子どもたちの学びをいかに深く効果的なものにするかということが大切です。
学校が地域から理解と信頼を得て、互いに支え合える関係になるために、「社会に開かれた教育課程」として学校が自己開示することが求められています。そして、教育のためのチームとして、地域と学校、また、学校間がタッグを組んでいくことで、教育目標を実現できると考えられます。
昔は地域と学校の距離感が近く、双方が一緒に人材教育をしているという感覚がありました。現在は、教育の近代化・高度化が進んだことで地域と学校のかかわりが少なくなり、徐々に学校は「教育システム」という要素が強くなっています。
「社会に開かれた教育課程」によって、再び地域と学校の距離を近づけ、協働して教育を行いたいという意思が伺えます。原点に回帰するだけでなく、学校におけるこれまでの経験の蓄積を踏まえていけば、以前よりも密接に地域と学校がつながることができるでしょう。
そうなれば今後、「学校」という場所の位置づけも変わっていくはずです。より地域に溶け込み、地域の各所で行われている教育の“ハブ”的空間になることができれば、地域の教育がよりよいものに変わっていくのではないでしょうか。
2.カリキュラム・マネジメント
2-1 すべての内容を3本柱に集約
教育課程の内容に目を移していきます。
新学習指導要領では、知・徳・体にわたる「生きる力」を育み、「主体的・対話的で深い学び」を実現することを念頭に置いています。そのためには「何のために学ぶのか」という学習の意義を共有すること、授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を行うことが必要です。
それを実現しやすくするために、全教科の目標や内容を、
①知識や技能
②思考力、判断力、表現力
③学びに向かう力、人間性
出典:H28年12月答申 捕捉資料
の3つの柱で再整理してあります。
これも学校内外から見て、教育課程をわかりやすくしたものだと考えられます。
たとえば、中学校社会・地理分野の目標としてあげられているのは次の3点です。(抜粋・一部要約)
(1) 我が国の国土及び世界の諸地域に関して,地域の諸事象や地域的特色を理解する。調査や諸資料から様々な情報を効果的に調べまとめる技能を身に付ける。
(2) 地理に関わる事象の意味や意義,特色や相互の関連を多面的・多角的に考察する力,地理的な課題の解決に向けて公正に選択・判断する力,思考・判断したことを説明する力,それらを基に議論する力を養う。
(3) 日本や世界の地域に関わる諸事象について,そこで見られる課題を主体的に追究,解決しようとする態度を養う。深い理解を通して涵養される我が国の国土に対する愛情,世界の諸地域の多様な生活文化を尊重しようとすることの大切さを自覚する。
3本柱の内容が、すべて含まれていることがわかります。
すべての教科等で、これと同じように3つの観点として整理されていますので、どの教科を行うときも意識しておきたいポイントなのです。
2-2 カリキュラム・マネジメントとは?
さて、現場においては、上記の3本柱に基づいて授業改善を行っていくことになりますが、「中学校学習指導要領解説(総則編)」には、次のように示されています。(抜粋)
児童生徒に求められる資質・能力を育成することを目指した授業改善の取組は,既に小・中学校を中心に多くの実践が積み重ねられており,特に義務教育段階はこれまで地道に取り組まれ蓄積されてきた実践を否定し,全く異なる指導方法を導入しなければならないと捉える必要はないこと。
つまり、今までの蓄積を生かしながら、新たな工夫も加えていくということです。
例としては、「語彙を覚えるだけでなく自分の言葉として使えるように生かす」「日常生活の文脈で数学を活用する」「何気なく使われている言葉が英語から来ていることを知る」ことなどが考えられます。
日常とかけ離れたところに学習内容があるのではなく、生活と密接していることを効果的に伝える工夫が一層必要になっていくのです。
また、学びの充実を図るためには、数コマ程度の授業のまとまりの中で、習得・活用・探究のバランスを工夫することも重要です。そこで必要になってくるのが新たなキーワード「カリキュラム・マネジメント」です。
カリキュラム・マネジメントについて、新学習指導要領をもとに整理すると次のようになります。
◎カリキュラム・マネジメントとは?
学校教育に関わる様々な取組を,教育課程を中心に据えながら組織的かつ計画的に実施すること。
◎カリキュラム・マネジメントの目的
教育活動の質の向上につなげること。
◎実施の大まかなポイント
a.地域の実態を適切に把握する
b.教育目標の実現に必要だと考えられる内容を、教科等横断的な視点で組み立てる
c.教育課程の実施状況を評価する
d.教育課程の実施に必要な人的・物的な体制を確保する
e.必要に応じてこれらの行動を改善する
教育課程をベースとして、どうすれば子どもたちの学びを最大化させられるかをよく考え、最も良い方法を実施することが念頭にあります。決して「決められている授業数をただこなす」「この方法と決められているからそのように行う」ということはせず、教育目標の実現に改めてフォーカスしていくことが必要です。
そのため、時には教科の枠を取り払い、柔軟な発想で必要なヒトやモノなどの資源を集め、進捗を管理しながら改善を重ねていくことが求められます。
各学校に求められることは、
・国や教育委員会の基準を踏まえ,自校の教育課程の編成・実施・評価・改善のうち課題がどこにあるのかを明確にすること
・課題を教職員間で共有し、改善を行うこと
これによって学校教育の質は向上し,カリキュラム・マネジメントが充実していくことが期待されます。
特に、人的・物的な資源は、学校内では賄えない部分も出てきます。
学校や地域によっても異なるため、地域の状況を把握しておくことが最重要となります。
積極的に地域ネットワークを活用し、効果的に組み合わせることで、より良い教育環境がつくられます。
3.教科等横断、学校段階間接続の視点
3-1 教科等横断
「総則」に新設された項目として、「教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成」と「学校段階間の接続」もポイントになります。
まず「教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成」について。
言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成するためには、教科の枠を乗り越えて学習を進める方が効果的な場合があります。
たとえば、中学国語の「指導計画の作成と内容の取扱い」の項目には、「漢字」について次のように書かれています。
他教科等の学習において必要となる漢字については,当該教科等と関連付けて指導するなど,その確実な定着が図られるよう工夫すること。
このように教科横断的な視点を持つことで、学習につながりを持たせることができるのです。座学にこだわらず、積極的な体験学習を取り入れていくことも一つの方法となるでしょう。
3-2 学校段階間の接続
次に「学校段階間の接続」について。
それぞれの学校段階が、その前後の段階との接続を意識して育成することが必要です。
中学校の新学習指導要領を見てみると、以下の記述があります。(一部抜粋)
(1) 小学校学習指導要領を踏まえ,小学校教育までの学習の成果が中学校教育に円滑に接続され,義務教育段階の終わりまでに育成することを目指す資質・能力を,生徒が確実に身に付けることができるよう工夫すること。
(2) 高等学校学習指導要領を踏まえ,高等学校教育及びその後の教育との円滑な接続が可能となるよう工夫すること。
つまり、小学校から高校以降までの学習が一貫性のあるものになるように意識していくということ。
学校同士が強く結びつき、子どもたちの成長過程に丸ごと関わっていくというイメージです。
これはキャリア教育の考え方ともリンクするところであり、社会との接続までを深く考慮したカリキュラムを実施していくことになります。
4.まとめ ― 「学びの地図」としての学習指導要領
今回このような改訂がなされた背景には、子どもたちを取り巻く環境の変化や、学校が抱える問題の複雑化などがあります。
そこで「社会に開かれた教育課程」を打ち出し、社会と学校が連携しながら教育にあたっていくことが、現在考えられている最善の方法です。
今後の学習指導要領は、「学校・家庭・地域関係者が幅広く共有し活用できる『学びの地図』(※中学校学習指導要領解説 総則編から引用)」と位置付けられ、地域社会にも浸透を図っていくことになるでしょう。
参考資料
・中学校学習指導要領 比較対照表
・学習指導要領のポイント等
・中学校学習指導要領解説 総則編
※平成31年(2019年)以降は年号変更を考慮し、西暦のみで表記。
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