2015.05.20 人づくり・現場指導 人づくりインタビュー【Vol.2】 東海大学理事・副学長、全日本柔道連盟副会長 山下 泰裕さん

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武道・スポーツを通じて、今の子どもたちに伝えたいこと、そして子どもの能力を引き出す指導者へのメッセージとは。
ロサンゼルス五輪で金メダルを獲得するなど世界で活躍し、引退後も柔道界を支え続ける山下泰裕さんにうかがいました。

武道の精神・教えを実生活に生かすことが大事

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幼い頃はとてもやんちゃで暴れん坊だったんですが、柔道と素晴らしい恩師に出会い、熱中していく中で性格も変わっていきました。

中学生の頃は柔道が大好きで、いつも練習していました。そんなとき恩師から掛けられた「柔道を通じて学んだことは必ず人生に生きてくる」という言葉は、今でもよく覚えています。

柔道を通して学んだあいさつや礼儀などを、学校や家庭といった日常生活の場でも、同じように実践するようにと、恩師はいつも教え諭していました。それは柔道創始者・嘉納治五郎師範の人づくりの哲学にも通じることを後になって知り、改めてその言葉の重みを実感しました。

武道は優れた技を習得し、相手に勝つことが重要ではなく、礼儀や相手への態度、思いやり、仲間とのつながりを学び、人生に生かすことが何よりも大事なことです。武道は人を育て、つくるものだと、私は考えています。中学校で武道が必修化されましたが、子どもたちが武道の精神や日本の伝統文化を学び、その後の人生に生かしていけるよう、現場の先生たちには導いてもらいたいですね。

自分を磨き成長することが、子どもの成長につながる 

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教員を目指す教え子を送り出す時には、いつも「子どもを磨く前に、まず自分を磨かないといかんぞ」と声を掛けてやります。

子どもの可能性を引き出したい、立派に活躍する生徒に育てたい、先生なら誰でもそういう思いを持っているでしょう。

しかし、子どもを伸ばすことばかりに気持ちを向けすぎて、自分自身を磨くことを疎かにしてしまう人も多いです。先生になってからが本当の勉強だと思います。 人は生きている限り、成長し続ける生き物。子どもと同じように自分も成長しているんだ、一緒に勉強していこうという気持ちは大切です。日々の職務がどんなに忙しくても、少しずつでも自分を磨く努力を続けてほしいですね。

そして先生を一番成長させてくれる存在は、少々手を焼くような難しい生徒。誠意を持って語りかけても分かってくれない、ともすれば反発する、そういった生徒から目をそむけず、真摯に向き合っていくことが大切です。

相手に伝わるように何度も試行錯誤し、粘り強く教え続けることで、自分なりの指導法ができたり、自信になったりと指導者自身の成長につながっていくのです。優秀な生徒ばかり指導していても、指導者の成長にはなりません。

いろんな角度から向き合い、子どものいいところを見抜く

指導で最も難しいのは、子どものいいところ、光るところを見抜き、引き出してあげること。私もまだまだ十分にできないけれど、それができる指導者こそ、本当の指導者と呼べるのではないでしょうか。

大学柔道部の監督になりたての頃、柔道部に白血病の子どもに血液の提供をしてほしいという呼び掛けがあり、協力したことがありました。

後日、その子の母親がお礼で来たとき、ある部員が頻繁に見舞いに訪れ、何度もその子を励ましてくれたと聞きました。その部員はあまり上達が良くなく、私が冷たく厳しくあたっていた4年生でした。私は彼の行いを部員全員の前で報告し、讃えました。きっと4年間で初めて褒められたと思います。その後、彼は一生懸命に練習するようになり、最後は胸を張って卒業しました。

人は認められたり、評価されると内から限りないエネルギーが湧いてくるもの。
一側面だけで評価するのではなく、できるだけ多面的に見て、いいところを見つけてあげる。そしてそれに光をあて、伸ばしていく。それが教育で一番大切なことだと思います。

今の時代、自分の指導法に不安を抱く先生も多いでしょう。
そんな時は一度、「先生」だから教えないといけないという考えを取り去ってみてはどうでしょうか。自分も生徒と一緒に学んでいくんだという気持ちがあれば、少しは肩の力が抜けるかもしれませんよ。(取材/三ケ田浩二)

kt002-1_profile_yamashihta.jpgやました・やすひろ
東海大学理事・副学長、全日本柔道連盟副会長

1957年熊本県生まれ。1977年の日ソ親善試合から、現役引退する1985年の全日本柔道選手権優勝まで203連勝(7引分を挟む)の記録を持ち、「史上最強の柔道家」と呼ばれた。全日本柔道選手権では9連覇の偉業を達成。1984年のロサンゼルス五輪では、右足を負傷しながらも勝ち抜き、金メダルに輝いた。同年、国民栄誉賞を受賞。引退後は全日本柔道男子強化ヘッドコーチ、国際柔道連盟教育コーチング理事などを歴任した。現在、東海大学理事・副学長、全日本柔道連盟副会長、認定NPO法人柔道教育ソリダリティー理事