2016.05.23 人づくり・現場指導 人づくりインタビュー【Vol.1】 全日本女子バレーボール アテネ・北京オリンピック監督 柳本晶一さん
スポーツを通じて、今の子どもたちに伝えたいこと、
そして子どもの能力を引き出す指導者へのメッセージとは。
世界を舞台に戦ったバレーボール界の第一人者・柳本晶一さんにうかがいました。
東京オリンピックの感動から始まったバレーボール人生
子どもの頃からスポーツが好きで、小学生の頃はいつも草野球をして遊んでいました。中学になったら野球部に入るつもりだったのですが、進学先の中学校には野球部がなかった。それで、友だちに誘われてしかたなくバレーボール部に入りました。
当時は体育館ではなくて、運動場のオープンコートでしたから、レシーブで転ぶたびに痛くてね。しかも、誘ってくれた友だちはさっさとレギュラーポジションに上がっていって、僕は補欠で毎日基礎練習ばかり。キツいし、上手くならないし、バレーボールなんて早くやめてしまいたいと心底思っていました。
東京オリンピック(1964年)が開かれたのがちょうどその頃、中学1年の時です。バレーボール全日本女子チームが金メダルをとりました。“東洋の魔女〟の活躍に日本中が熱狂するのを見て、体中の血が沸き立つように興奮したのを今でもよく覚えています。親にも内緒で、嫌々やっていたバレーボールなのに、日本が金メダルをとったスポーツを自分もやっているんだと思うと急に誇らしくなって、いつかあの舞台に自分も立ってみたいと強く意識するようになりました。そこからはバレーボール一筋。気がついたら10年後、夢だった日の丸のユニホームを自分が着ていたんです。
何かに一心にのめり込む力を大事にしてほしい

今の子どもたちを見ていると、スポーツをする環境は昔に比べるとずいぶん整って、物質的にも恵まれているなと感じます。その反面、何かに食らいついていくエネルギーのようなものが弱くなっているのかなとも思いますね。社会が多様化して、インターネットからあらゆる情報が手に入る。やる前からすでにいろんなことを知っているのでしょう。失敗しないよう前もってリスクを予測して、自らのハードルを下げてしまう。本当の力は、理不尽なことにぶつかったり失敗したりしながら、それに耐えることでこそ身につくもの。子どもは失敗するのが当たり前なんです。周りの大人や先生たちも、そこを割り切ることができればラクになれるのにと思いますね。これやってみたいなあ、ああなりたいなあ、そういうシンプルな憧れ、動機みたいなものからなんでもいい、そこから迷わずなにかにぐーっとのめり込んでいく、そういう時間や体験というのがとても大事なんじゃないかなと思います。
夢を持たせ、手を添えながら一緒に伴走する
30年間、指導者という立場で選手や子どもたちと接してきて思うのは、どんなに不器用で上達が遅い子でも、一生懸命やっている限り、下手なままで終わることは決してない、ということです。これはスポーツに限らずいえることだと思いますね。
伸びる幅やスピードは子どもによってまちまちですが、どんな子にも必ず伸びる瞬間がある。指導者や先生方はそのタイミングを見逃さないでほしい。「今のそれや! それやないか!」と。その瞬間にその子のステージが変わります。今はできなくても、トライし続けていればいずれできるようになる︱。そのことを信じて、夢に向かう心の火種を消さないようにしてやってほしい。あきらめない限り、チャンスはいくらでもあるわけですから。
ただ、子ども一人の力には限界があります。そこを指導者が上手く手を添えて出せる力を広げてやってほしい。食いつかない状態のまま終わらせてほしくはないんです。
「負ける」ことが次につながる

そのためには、明確な目標を持たせること。選手や子どもたちが一生懸命になれる環境をつくってやることが大切です。
代表監督になった時、僕は「オリンピックで金メダルをとる」と公言しました。目標を高く設定すると、仮に銅メダルでもそこで終わらない。負けた悔しさを味わうことによって、なにが足らなかったのか、次なる目標に向かってまた前へ歩き出せる。もし目標を低く設定したら、そこで満足してしまって、それ以上の実力を出せずに終わってしまうのです。
どんな人間にも成功と挫折があります。人生「勝ち」だけでもなければ「負け」だけでもありません。大切なのは、負けたことをきっかけに自分を変えられるかどうか。「負け」て気づくことの方が実は価値がある。そこに、向かうべき必要なエッセンスが詰まっています。
だから僕は、人生「負け、勝ち」だと言ってるんですね。どんなにばかにされても、高い目標を掲げて一歩でも半歩でも近づいていく。社会に出てキャリアを形成していく上でも、挫折や困難を恐れないでほしい。それをバネにできる人間が、本当の自分の夢やロマンに向かって歩き続けられるのではないかと思います。
やなぎもと・しょういち
全日本女子バレーボール アテネ・北京オリンピック監督
1951年大阪府生まれ。大阪商業大学附属高等学校卒業後、帝人三原に入社し実業団リーグに出場。その後全日本代表としてモントリオールオリンピックに出場、4位となる。1991年に監督専任となり、1997年、女子・東洋紡オーキスの監督に就任。2年目でVリーグ優勝へ導く。2003年に全日本女子チーム監督に就任。アテネ、北京オリンピックに出場し、いずれも5位の成績を残した。現在、(一社)アスリートネットワーク理事長、(一社)日本アスリート会議議長・理事長、芦屋大学特任教授・スポーツ教育センター長。

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