2018.10.15 先生向けコラム 新学習指導要領で注目! 主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)とは?

AdobeStock_33934243_2.jpg

これから求められるのは、知識だけでも思考力だけでもなく、知識を活用して自分の頭で考え、解決できる力。
今までになかったような新しい課題を発見し、解決に向けて行動できる人を育てることが教育の課題でもあります。

この記事で扱うのは「主体的・対話的で深い学び」。近年、教育界で注目を集める「アクティブ・ラーニング」を言い換えた言葉です。
「アクティブ・ラーニング」は、その言葉の目新しさから、新しい学習手法であると捉えられがちですが、決してそうではありません。生徒が主体的に学びを深める学習であれば、既存の学習手法や指導法も「アクティブ・ラーニング」であると言えます。

この記事では、このようなよくある誤解や不安を解き、アクティブ・ラーニングとは何なのか、なぜ今注目されているのか、どのように授業に取り入れるのかといったことを解説。
これ以降、主体的・対話的で深い学びをについて、「アクティブ・ラーニング」という表記に統一します。

目次
1.アクティブ・ラーニングはどこからきたのか?
2.小中高校におけるアクティブ・ラーニング
3.新学習指導要領における「主体的・対話的で深い学び」
4.アクティブ・ラーニング実践例
5.まとめ―効果的な運用を模索する期間が必要

1アクティブ・ラーニングはどこからきたのか?

アクティブ・ラーニングという言葉は、「学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。(文部科学省用語集)」と定義されています。つまり、学習する人が自ら主体的に考え学べるような仕組みのことです。

もともとは大学教育に関する用語で、はじめて登場したのは平成24年8月28日、「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~」と題した中央教育審議会の答申です。
通称「質的転換答申」というこの答申で、次のようにアクティブ・ラーニングが記載されています。


生涯にわたって学び続ける力、主体的に考える力を持った人材は、学生からみて受動的な教育の場では育成することができない。従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である。(平成24年8月答申)

ここから大学教育現場においてアクティブ・ラーニング導入が加速していきました。これに伴い、大学入試改革も動きを見せています。2021年度から大学入試は大きく変わります。大きなポイントは3つ。

  1. 「大学入試センター試験」を廃止し、「高校生のための学びの基礎診断」「大学入学共通テスト」が導入される。
  2. 「大学入学共通テスト」では、「知識・技能」だけでなく「思考力・判断力・表現力」も評価される。
  3. 個別大学の入学者選抜では、アドミッションポリシーに基づく多面的・総合的な評価へ転換する。

これらは「学力の3要素」を多面的・総合的に評価する形になっています。
「学力の3要素」とは、

  1. 知識・技能 
  2. 思考力・判断力・表現力
  3. 主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度

の3つです。

「質的転換答申」では、高等教育と初等中等教育の接続についての課題として、次のように述べています。

大学における主体的な学修は、義務教育及び高等学校教育を通じて基本的な知識・技能の着実な習得やそれらを活用して課題を解決するために必要な思考力等、並びにそれらを支える学修意欲、倫理的、社会的能力が基盤として形成されてこそ成立する。(平成24年8月答申)

資質・能力の育成とアクティブラーニング.jpg
H28年12月答申 捕捉資料より

大学でアクティブ・ラーニングを効果的に実施するには、学生たちがそれを活用できる力を備えていなければならない。
つまり、高校までの教育においても思考力や学習意欲、主体性などを形成しておかなければならないということです。

このような経緯から、アクティブ・ラーニングが学校段階を下りて実施されていくことになりました。
 

2.小中高校におけるアクティブ・ラーニング

アクティブ・ラーニングは、体験学習やフィールドワークなど、直接体を動かして行うもののみを指すのではなく、話す・聞く・考えるなどの活動を通した「能動的な学習」のことを言います。一方通行の座学からの脱却を図るため、教員と生徒、生徒同士、学校と地域のコミュニケーションを通して、知識の定着と学習意欲の向上を両立させようとしているのです。

「総合的な学習の時間」をはじめ、生徒の「言語活動」の充実は現行の指導要領にも記載されており、実施している学校も多いでしょう。

言語活動は、「学習活動や人間関係の形成における基盤は言語能力にある」という位置づけから重視されている活動です。国語科だけでなく、どの教科でも取り組まれるべきものでもあります。

そのため、生徒をグループに分けて意見交換をさせたり、前に出て発表させたりといったことは、多くの小中高校で行っているのではないでしょうか。アクティブ・ラーニングはこれまでの言語活動をベースとし、より深め充実させていくことと認識するとよいでしょう。

これまで学習指導要領には「何を学ぶか(What)」を中心としたカリキュラムが並べられていましたが、これからの学習指導要領では「どのように学ぶか(How)」まで言及しています。学ぶべき「内容」とその「方法」を明確にし、評価していくようになるのです。

教育の方針が、教員の「何を教えるか」から、生徒を主語にした「何ができるようになるか」に変わっているといえます。

 

3.新学習指導要領における「主体的・対話的で深い学び」

240_F_33927281_Zuu6AEjcXYF4BIPDx7xqXEwyST6wkyFA.jpg

アクティブ・ラーニングは教育業界で流行語のようになっていますが、実は2017年3月告示の新学習指導要領にその文言は入っていません。代わりに、「主体的・対話的で深い学び」と表現を変えて明記されました。

「主体的・対話的な深い学び」を活用して授業を改善していくことによって、「知・徳・体をバランスよく育てる」ことを目指す。それが生きる力の体得につながります。

新学習指導要領には「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」の例が記載されていますのでチェックしていきましょう。

  1. 単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら授業改善を行うこと。
    ※各教科等において身に付けた知識・技能を活用すること
    ※思考力、判断力、表現力等や学びに向かう力,人間性等を発揮させること
    ※子どもたちが「見方・考え方」を働かせながら考えることができるよう促していくことが重要。

  2. 言語能力の育成を図るため,各教科の特質に応じて必要な言語環境を整え,読書活動も充実すること。

  3. 情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークといったICT環境や各種教材を整え、これらを適切に活用すること。

  4. 生徒が学習の見通しを立てたり振り返ったりする活動を,計画的に取り入れること。

……他3項目(新学習指導要領・要約して記載)
 

 4.アクティブ・ラーニング実践例

アクティブ・ラーニング型の授業を実践している例は、国語や英語などの言語科目以外にも増えてきています。

たとえば、高校の物理や数学で、教員自作のプリントやスライドを配布して授業を行う例があります。授業開始時に配布してしまうことで、講義時間とノートをとる時間を短縮。短い講義を行った後、授業の半分以上の時間を問題演習に使っているのです。

そして問題演習の時間は、生徒をグループに分け、考え方を共有したり、わかる人がわからない人に教えたり、協働して学びを深められるように工夫しています。ここでの教員の役割は、生徒同士の話し合いが活発に行われるように導くファシリテーター。生徒の意見を引き出し、その授業で学ぶべきことにうまくつなげていく力が求められます。

こうした取り組みにより、生徒の学習に対する意欲に変化が見られるケースも多くあります。
「授業後も生徒同士、課題について話し合っている」「理解度が深まるため授業スピードも上がり、教科書の内容を早めに終わらせることができる」など、手ごたえを感じている先生もいます。

生徒の理解度が上がれば、あとから教え直す必要もなくなり、長い目で見て効率的な授業が行えるのではないでしょうか。
こうした実践例が今後急速に増えていくはずです。

教員の立場から見れば、プリントやスライドを使用すると、授業準備には少し時間がかかるかもしれません。また、グループワークなどが表面上の取り組みにならないよう、「深い学び」を意識した授業設計が求められます。

ですが、上記で紹介した実践例のほかにも、やり方はさまざま考えられます。大事なことは、「生徒が主体的に考えられているかどうか」。そこを押さえられていれば、アクティブ・ラーニングの意図は実現できていると言えるでしょう。

 

5.まとめ ― 効果的な運用を模索する期間が必要

アクティブ・ラーニングは、教員にとっては新しい概念ではありません。
しかし、これからの時代を担う人材を育てるうえでは、これまでのやり方に対する視点を少し変えることが必要です。
「主体的・対話的で深い学び」になっているかどうか、意識しながら授業を行うことも必要なのではないでしょうか。

アクティブ・ラーニングをこれまでより多く、そして深く活用すれば、思考力・コミュニケーション力・主体性など、生徒にさまざまなものを身につけさせることができます。同時に、教員の指導スキルも向上します。

学びの内容・方法にこだわり、効果的な運用を行えるようになるには、模索する期間が必要かもしれませんが、こういった取り組みを生かしていくことで、学校の教育力がさらに高まっていくのではないでしょうか。

 

参考資料
文部科学省用語集
平成24年8月28日答申 「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~」

senseiyell_pc_w1136h432-02.jpg

school_image_125.jpg

探究学習のテーマはどう設定する?興味が湧く面白いテーマ例をご紹介

2023.06.28 先生向けコラム 探究学習の授業計画を立てるにあたって、テーマの設定に悩んでいる先生もいらっしゃると思います。この記事では、探究学習の課題点やテーマ設定のポイントについて解説しています。具体的なテーマ例も挙げていますので、ぜひ授業づくりにお役立てください。

school_image_141.jpg

学校広報とは?生徒に選ばれる学校になるために

2023.03.15 先生向けコラム 学校広報は以前より、生徒募集などさまざまな役割があります。 一方、少子化の加速やインターネット・SNSの普及に伴い、学校広報に求められる手法や視点が変化しているのも事実です。今回は、学校広報の「情報発信」についてご紹介します。

  • thumbnailbukatsu.png

    部活動地域移行とは。部活動改革のカギを握る“地域移行”の先行事例をご紹介

    2023.02.23 先生向けコラム 長年にわたる学校教育の中で、部活動は重要な位置を占めてきました。また部活動は生徒の体力向上や人間関係の構築にも、大きく貢献してきました。ところが現在、社会の変化に合わせる形で、部活動の在り方が変わりつつあります。その流れに沿ってスポーツ庁や文化庁、文部科学省が中心になり、「部活動改革」の推進が始まり、今後さらに取り組みが進むことが予測されます。 具体的には、部活動の地域移行や、教員の働き方改革が行われることになりますが、こうした取り組みが教育現場にどのような変化をもたらすのでしょうか。部活動改革の概要のほか、先行的に部活動の地域移行に取り組んでいる地域部活動推進事業モデル校の事例も含めてご紹介します。
  • sdgs_casestudy.jpg

    学校でできるSDGsの取り組みをご紹介。中学生・高校生でもできる取り組み事例

    2023.02.16 先生向けコラム 近年、持続可能な社会の担い手となる子どもたちの学ぶ力を育むため、様々な学校がSDGsを教育に取り入れています。 しかし、SDGsの取り組みで学校でできることは何なのか。学校教育にどのように取り入れたら良いのか悩まれている先生方も多いのではないでしょうか。今回は学校で実際に行われている取り組み事例を8つご紹介します。
  • onigiriaction.jpg

    家庭科の授業に活用できるSDGsを取り入れた授業例

    2023.02.01 先生向けコラム 2022年度から高校の教材などに大きく取り上げられるSDGs。家庭科の先生方もどのようにSDGsを家庭科の授業に取り入れていくか検討していらっしゃるのではないでしょうか?この記事では家庭科授業を実践されている先生にインタビューを行い、なぜ家庭科の授業でSDGsを取り入れたのか、どのようにSDGsを授業に落とし込んでいったのかを中心に紹介していきます。