2016.10.04 先生向けコラム キャリア教育に求められること〝教える〟ことから〝育てる〟ことへ【後編】

「成長社会」から「成熟社会」へと、複雑多様化していく現代。
学校現場においても、これまでの正解を求める教育から、課題を発見し解決する力を養い育てる教育へと変換を求められています。新しい時代を生きていくために、今後子どもたちをどう育てていけばよいのか。
キャリア教育の要点や子どもたちに学んで欲しいことについてキャリア教育コーディネーター生重 幸恵さん、キャリアカウンセラー小島 貴子さんに対談していただきました。二回に渡ってお届けします。

前編を見る

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 自分で決める、自分で管理する

生重 小島先生は、人材育成やキャリア教育のトレーニングとして、まず「自分で決める」ことを重要テーマに掲げていますね。

小島 これまで日本の人材教育は、「自分で決める」ことをあまり承認してこなかったんですね。まず、自分で決めさせてそれをしっかりと承認すること。それによって自己肯定感が育ちます。自己肯定感が低いと、チャレンジする前にあきらめてしまう。大人になり、一人で自分の道を選択するために、自己肯定感はとても大切なんです。

生重 自分で決めるということは、教えてもらわなくても自分で学ぶ能力を身につけることにもつながりますから。自分で決めて、たとえそれが失敗したとしても、自己肯定感のある子は、体験を通して自分で自分を矯正していくこともできるでしょう。時間の管理も、普段から主体的に考えて行動する習慣がない限り、身につかないですしね。

「なぜ?」を問う力


小島 それと、問いを立てる力を育てることも重要なポイントだと思っています。質問する時間を持たせないと、指示されて動くことに慣らされてしまいます。いわゆる〝指示待ち〟ですね。こちらも「自分で決める」ことと同じく、特に高校教育の中であまりやってこなかった部分ですね。

生重 確かに。今、なぜ高大接続システムの議論が生まれているかというと、やはり高校教育の質が問われ直しているからだと思います。

小島 教えてもらったことをそのまま鵜呑みにするのではなく、これは正しいのかと疑ってみる。なんかへんだな?と思ったら、口に出して発言したり、調べたりしながら熟成させていくと「知識」になります。学問で得た情報を集積して整理分析、編集加工、アウトプットする過程が必要なんですね。そこを経て初めて「知識」が体現化します。どうか醸成する時間を子どもたちに与えてほしいと思いますね。

生重 自分で決める、「なぜ?」を問う。まさにそこがキャリア教育の原点かもしれないですね。自分の人生やキャリアを自分で決める。偏差値や学歴に縛られない生き方を模索していく時代がやってきていると感じますね。みんなと一緒というのもなくなる。自分の生き方をそれぞれが突き詰めていかないといけない。

小島 そうです。「自律」から「自立」へのプロセスです。さらに具体的な手法を紹介すると、問いを立てる時、質問と設問を使い分けることが「決め方」のトレーニングにつながります。質問は単なる事実の確認や問い合わせ、設問は問題提起を含みます。例として「◯◯をしたい場合、何をどうすればいいだろうか?」的な問い方です。解決を導くような答え方を要求されるので、考える習慣が身につくようになります。

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 求められる「チーム学校」

生重 ところで、最近の学校現場で問題視されているのが先生方の多忙化です。実際「子どもと接する時間が少ない」という声をよく聞きます。先生方が子どもと向き合い、授業に専念する体制をつくるためにも、学校の中だけで負担を解決しようとするのではなく、家庭や地域にフィールドを広げて学校組織全体の総合力、いわゆるチーム力を高めていくことが大切だと感じます。

小島 そうですね。これからの学校教育は、子どもたちが自ら課題を発見し、他者と協働してその解決に取り組む力を育てることが求められます。教育の外側にある社会のしくみや活動と関連させる意味でも、外部の人材は非常に大きな力になると思いますね。

生重 最近は、大学などでもアクティブ・ラーニングの手法として課題解決型学習が積極的に取り入れられていますね。

小島 学生たちがプロジェクトを組み、ある課題に取り組む、いわゆるPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)は私も大学で取り入れています。一例として、ある地域の名産のホタテを、その収獲時期にブランド化して売り込もう、そのためには人はどのくらい必要でお金はいくらかかるか、何日間かかるかといった具合に進めます。キャリア教育を「見える化」するには、一番よい手法です。

生重 中学、高校の各教科でもぜひこれを取り入れてほしいですね。それぞれの科目をその先にある地域や産業、経済など「社会」と結びつけて考えさせる時間ができると、さまざまなつながりが見えて、今なぜこれを学ぶ必要があるのかがわかります。ゲームソフトを開発するには数学の関数やベクトルがわかってないとだめだ、とか(笑)。

小島 課題解決型学習は、目的や目標を設定するので意欲付けにもつながりますよ。

生重 PBLをとってみてもわかるように、キャリア教育を実践していくには、先生方も柔軟に、もっとラクに、地域の人やゲストを招いて頼ってほしい。さまざまな職種の大人との関わりを通して、子どもたちに「働くことはなんであるか」を考えさせること。多様な他者を受け入れる環境をぜひ学校の中につくってほしいと感じますね。

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プロフィール

キャリア教育コーディネーター
生重 幸恵さん いくしげ・ゆきえ

%e7%94%9f%e9%87%8d2特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長。一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会代表理事。文部科学省第8期中央教育審議会委員。PTA会長時代から学校の支援を積極的に行い、その経験により区内の他校PTA会長経験者と共にスクール・アドバイス・ネットワークを設立。全国の教育委員会・PTA等主催研修会で講師を務め、「学校支援」「地域活性化」のプロジェクトに参画。企業の教育支援活動の推進にも助力し、社員研修やフォーラム等を実施。企業の持つノウハウを学校授業につなげるためのプログラム開発を手がける。内閣府の地域活性化伝道師、第8期東京都生涯学習審議会委員、東京都社会教育委員など歴任。

キャリアカウンセラー
小島 貴子さん こじま・たかこ

%e5%b0%8f%e5%b3%b61東洋大学理工学部生体医工学科准教授。埼玉県人事委員会委員、一般社団法人多様性キャリア研究所所長。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)勤務。出産退職後、7年間の専業主婦を経て、 91年に埼玉県庁に職業訓練指導員として入庁。キャリアカウンセリングを学び、職業訓練生の就職支援を行い、7年連続で就職率100%を達成する。多数の企業で採用・人材育成コンサルタント及びプログラム作成と講師を務める。ラジオNIKKEI「小島・鈴木のダイバーシティ・プラットフォーム」放送中。二男の母。

 

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