2017.09.05 人づくり・現場指導 子どもの学びの“轍”は社会総ぐるみで作る【後編】

子どもたちの未来を見据え、社会で生きていく力を養っていく「キャリア教育」がこれからの学校教育では求められています。学校での学びが将来職業に就いた時どう活きてくるのか、それを学ぶためには教員が企業や地域と手を携えていくことが不可欠です。学校・企業・地域はどのように関わっていけば良いのか、産業界と教育界の2つの視点からお二人に対談いただいた内容を全2回に分けてご紹介します。後編ではキャリア教育推進のために地域・企業と関わることについて語っていただきます。 

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発達段階に応じた指導法で 確実に轍を伸ばしていくことが大切

長田 キャリア教育は今の学びが将来にどのようにつながるのかを意識させることが重要ですが、発達段階に応じて意識する時間の長さや関わる範囲は。例えば、小学校低学年に職業のことを意識させる必要はなく、今の学びが1学期の終わりにはどのように結びついているかなど、時間的ベクトルを短くして、もっと身近に捉えさせた方が分かりやすいでしょう。中学年以上になれば1年後や2年後、中学1・2年は数年後、中学3年・高校1年ならば10年後、15年後、高校3年になれば老後のことを考えさせてもいいかもしれない。これと同じように自分たちが関わっていく範囲も徐々に広げていくといいでしょう。小学校低学年では身の回りについて、高学年では家庭も含めた学校全体、中学生なら地域全体、高校生になれば自分の住んでいる市や県はこういう風に自分たちで作っていきたいと。最初は短い轍から始まり、それがだんだん長くなって子どもたちの学びの軌跡となっていく、そういった指導が理想的だと思いますね。

尾﨑 キャリア教育を充実していくなかで、先生がどのようにキャリアを積んでいくかは、非常に重要であり、今後のキャリア教育の指導法にも大きく影響すると思うのですが。

長田 そうですね。やはり教員の意識を変えていくためには、若い時からキャリア教育に関わっていくことが重要です。できれば大学の教員養成課程からキャリア教育に携わってほしい。そして成功体験をたくさん積んで教員としてもキャリアを積んでほしい。例えば、教師を目指す学生がキャリア教育に積極的に取り組む企業にインターンシップにいって様々な事業に参加させてもらうことができれば、日本の学校教育は確実に変わっていけると思います。

尾﨑 それは私たちも今後進めていきたいですね。先生たちがキャリア教育するにしても、「先生」という職業のキャリアだけでは充分な指導はできないと思います。他の業種のことを先生方には知ってもらい教育の糧にしてもらいたいし、企業は講演会や学びの場を提供することで、キャリア教育に徐々に参加していく。そういうところから、先生と企業がつながるお手伝いをしていきたいですね。

学校、企業の連携だけでなく 保護者のキャリア教育への参加も重要

尾﨑 キャリア教育の充実には、企業と学校の連携だけでなく、保護者の関わり方も非常に重要ですね。テストの点数や成績、有名大学に進学することばかりこだわって、それを子どもに刷り込んで勉強させるのは、キャリア教育ではないし、多くの保護者が知らず知らずのうちにやってしまっていることだと思います。私自身はテストの点数よりも、間違えた問題が何故解けなかったのか子どもと一緒に考えるようにしています。しかし、自分の行いや発言がキャリア教育に結びついているのか自信がないのも事実です。そういう保護者は多いのではないでしょうか。

長田 その通り、保護者のキャリア教育への関わりはとても重要です。親の意識や価値観というものは、子どもに多大な影響を与えます。特に日本では家庭教育も含めて自己選択、自己決定させるトレーニングがうまくいっているのか、確認しなければなりません。大人が決めてレールをひいてしまっていないでしょうか。だから親の価値観や職業観が子どもに刷り込まれやすい。志望校を偏差値で決めてしまう子どもはその子が悪いのではなく、親からずっと言い聞かされてきたのではないでしょうか。

尾﨑 キャリア教育は学校だけ、企業だけではできない。学校と企業の連携が密になっても家庭の理解がなければうまくいかない。学校、企業・地域、家庭が相互に関わり合うことが求められますね。やはり、子どもを取り巻く大人たちの意識改革は不可欠ですね。

長田 そうですね。先ほども述べたように、学力・学歴が高いだけでは社会に適応できずニートになる危険性がある今、保護者も高学歴なら就職に困らないという認識を改めないといけません。点数や成績のことばかりをいうのではなく、身の回りの事や社会問題についてでもいいので、保護者には子どもと語り合う時間を大切にしていただきたいですね。自分にはいろんな可能性がある、自分のことは自分で決めるのだ、そういう意識を子どもに教える。それが家庭でのキャリア教育と言っても過言ではなく、子どもの轍になっていくと思いますね。

部活動にもキャリア教育 将来との繋がりを意識させる会話が重要

尾﨑 部活動もいろいろ課題がありますが、キャリア教育を実践する場としては適しているのではないでしょうか。私たちも部活動をサポートするツールを開発し、先生のお手伝いをしていますが、教科学習よりもキャリア教育の成果が感じられそうですね。

長田 実は部活動こそが、一番キャリア教育を実践できている場なのです。計画的な練習や努力が、次の試合にどう繋がるか、それを意識する部活動はまさにキャリア教育そのものです。また部活動がキャリア教育に適しているのが、「負け」があること。人生も同じように勝ち続けられる人はほとんどいない。部活動の経験が、社会に出て、生きてこないことはないと思います。授業やカリキュラムでのキャリア教育に自信がない先生は、部活を核にしてキャリア教育に取り組んでいけばいい。日常の会話の中にある「今の努力が・・・」「今のがんばりが・・・」という言葉が子どもたちの未来に確実に繋がっていきます。

先生の多忙を乗り越え 外部との関わりを作るためには?

長田 教員の多忙さは喫緊の課題であり、多忙が外部との連携を阻害している一要因にもなっています。欧米では教員は原則教科のみを教えていますが、日本の教員は生徒指導・進路指導に事務まで一人でこなしており、まさに“スーパーティーチャー”。しかし、一人の人間が業務を統括することは、子どもたちの生活を全て見通せるという点でよい側面を持っています。勤勉で真面目な教員たちが多忙の中でも、自分たちがしている教育が子どものため、社会のためになっていると実感できれば、日本の教育の良さはさらに進化していくと思います。そのためにもまずは学校業務の効率化を図ることが求められます。教員は企業の持つノウハウやサービスを積極的に活用することも必要かもしれません。

尾﨑 私たちはこれまで先生方の悩みや不安をひとつでも解消できるようにと、学校全体の運営をサポートする様々なソリューションを提案してきました。私たちだけに限らず、様々な企業の持つノウハウの中には、学校業務の効率化に役立つものも多くあると思います。「営業か」「胡散臭い」と企業人をシャットアウトせず、気軽に話をしていただきたいですね。そこから企業との連携が始まる可能性は大いにあります。

長田 そうですね。私も元々中学校の教員だったので、企業の方があいさつに来られると「商売の話だな」と思っていました。しかし、学校に関わる企業は自分たちを助けてくれる存在でもあるので、先生方も積極的に関わりを持ってほしいですね。多忙な中でもキャリア教育に関わっていくには、上司の存在も大きいと思います。私がキャリア教育を始めたきっかけは上司である校長に命令されたから。でも実際に関わってみて、自分のためにもなって、やって良かったなと実感しました。こういったキャリア教育を率先して進めようとする上司の存在は、組織を動かしていく上では必要かもしれませんね。

尾﨑 やはり組織はトップによって変わるもの。学校は校長の意識によって変わるものだと思います。しかし、トップになるなら、トップになるなりの育て方や指導が必要になるでしょう。そういった面も経営者として、お手伝いできる部分は多々あると思うので、そういうところにも関わっていければいいなと考えていますね。

長田 地域の教育への関わりをもっと進めていく中で課題になっているのが、放課後の子どもたちの居場所や活動づくり。子どもの数や土地、人材など様々な問題でなかなか居場所を作ることができていません。これもキャリア教育と同じで、地域と行政だけでするのではなく、企業も巻き込んでいけば、より発展したものになっていくと思います。企業には是非、PTAのOB・OGで高い志を持って居場所づくりに取り組んでいる人を、企業の持つプログラムや人材で支援してほしいですね。それによって地域・企業・行政の三者にプラスになる関係が築いていけると思います。

尾﨑 学童保育や放課後の居場所づくりに企業が参入していけば、そのノウハウやツールを活用してより発展的なものになりそうな気がしますね。企業の社員もこのような場で地域や子どもと接していれば、キャリア教育について考えられるようになるかもしれません。私たちも学童保育へ向けたプロジェクトを立ち上げ、関わっていますが、この企画を考えたのは7人の女性社員でした。キャリア教育の視点で考えられる社員が徐々に増えているとうれしく思いました。そういった社員が増えていけば、学校と企業とが繋がる機会も一層増えていくと思いますね。

学校現場の先生方へ

長田 キャリア教育は子どもたちのためにあるものですが、実践して一番心を動かされるのは大人です。子どもたちから率直な声をかけられるとうれしいし、教育に携わることの尊さを覚え、またやろうという気持ちになる。そういう好循環が生まれることで、キャリア教育は充実していくのです。教員も企業の社員も早い段階で「成功体験」を多く積んでいくことが、キャリア教育を浸透させるカギになります。先生たちには学校の扉だけでなく、心の扉も開いて、民間企業や地域の人たちと“人づくり”を一緒にしていく体制を整えていただきたいですね。

尾﨑 キャリア教育に取り組むとなると、ヒントがほしいとか何が足りないとか、不安や疑問がたくさん出てくると思います。私たちはその声一つ一つに耳を傾けてサポートしていきたいと考えています。カンコータイムズを通じて、全国の先生方とつながることで、各校のキャリア教育の充実に少しでもお力添えしていきたいですね。



【前編記事を読む】 「学校での学びを将来につなぐ、キャリア教育の意義」

「カンコーは、子どもたちの夢と学びを応援しています」

※本稿は、(一社)カンコー教育ソリューション研究協議会からの業務委託により、菅公学生服株式会社がお届けする学校現場のお悩み解決を目的とした教育関係者様向け情報誌 『カンコータイムズ』 を基に加筆した記事です。