カンコー博物館 学生服の今とこれから

カンコーの匠vol.01

黄綬褒章を受賞した
縫製のプロフェッショナル。

吉良 美子Kira Yoshiko

昭和41年入社。米子工場勤務。縫製技能士の育成指導者として活躍。国家資格である布帛縫製技能検定(ワイシャツ製造作業)において、これまでに1級・2級合わせて250名以上を合格させている。現在は中国、ベトナム、ミャンマーなどの海外の協力工場にも足を運び、技術指導を行っている。

平成14年:
鳥取県高度熟練技能者(とっとりマイスター)受賞
平成20年:
卓越した技能者(現代の名工) 受賞
平成23年:
秋の黄綬褒章受章

布帛シャツ(カッターシャツ)部門の技術指導者としてご活躍されている吉良さんにお話を伺います。よろしくお願いします。

吉良よろしくお願いします。

吉良さんは昭和41年のご入社ですから、縫製一筋40年以上ですよね。入社当時と今とで、何か変化はありますか?

吉良制服の種類が圧倒的に増えましたね。昔の学生服は全国横並びで、ほとんど同じデザインでしたでしょう。今は学校が差別化を図る時代ですから、一校一校デザインが工夫されていて、個性豊か。多品種少量生産の時代です。

カンコーでは現在、シャツだけで5000種類以上のアイテムを製造していますね。

吉良生産量そのものは少なくなりましたが、アイテム数は30〜40年前に較べて50倍に増えています。

50倍!

吉良また、色や柄だけではなく、着心地や動きやすさを考慮した形状に進化しています。制服のデザインはどんどん複雑になってるんですよ。

ということは縫製作業も難しくなっているわけですね。

吉良そうですね。昔は機械が自動で縫う工程もあったのですが、今はほとんどの工程が職人によるミシン縫いです。

一般的な工業製品は時代と共に機械化が進んでいますが、それとは正反対ですね。特に難しいのはどんな作業なのでしょうか。

吉良シャツの縫製工程は全部で80工程近くありますが、中でも難しいのは襟付けですね。カーブに沿ってうまく合わせていかなくてはならないので。一人前になるまでに3年はかかります。

吉良さんは縫製のプロ、匠として数々の賞を受賞されています。「鳥取県高度熟練技能者(とっとりマイスター)」、「卓越した技能者(現代の名工)」、そして平成23年には黄綬褒章(※)を受賞されました。※「業務に精励し衆民の模範たるべき者」に授与される栄典

吉良私個人が受賞したというより、若い頃に自分を育てていただいた先輩方や、今まで支えてくれた仲間を代表していただいた賞だと思っています。

受賞した時のことで、何か印象に残っていることはありますか。

吉良息子が「よかったなあ。すごいな」と言ってくれたことが何よりうれしかったですね。私はこの仕事が大好きで続けてきたんですが、そのぶん家族には少し我慢してもらったかもしれないな、という気持ちがずっと胸にありました。なので息子にそう言ってもらえて本当にうれしかったです。

吉良さんご自身が高度な縫製技術を習得されていることはもちろん、長年にわたって多くの技能士を育成してきたことが評価されました。人を育てるということについて、どのようなお考えをお持ちですか。

吉良「覚えられないのはその人が悪いんじゃなくて教え方が悪いんだ」ということをいつも心に留めています。これは私の考えというより、昔から受け継がれているカンコーの風土なんです。私を育ててくれた先輩もみなさんそういう接し方をしてくださいました。

数値化することのできない勘やコツを教えるのは難しそうですね。

吉良そうですね。なるべくその人の成長レベルに合わせた教え方をするように心がけています。急にベテランと同じことをやれと言ってもできませんから。今できているレベルに合わせて、次の目標を設定するように指導しています。

米子工場の縫製ラインには約140名の社員がいますが、一人ひとりの個性を把握しているわけですね。

吉良はい。技術のことだけじゃなくて体調の善し悪しとか、悩みごとがないかとか、そういったことにも目を配るようにしています。みんなの性格も家族構成も知っていますからね。朝来たら顔色を見て、様子がおかしかったら声をかけて。プライベートのことも相談しやすい関係をつくっているつもりです。

仕事が終わればみなさん仲良くご飯を食べに行ったりされてるそうですね。

吉良ええ、おいしいお店を見つけたらすぐに情報共有して(笑)、コンビニで新発売のスイーツが出てたら教えあったり。上司も部下も関係なく、わきあいあいと楽しんでます。

吉良さんの業績として「生産ラインの改善案を数多く提案してきたこと」も高く評価されています。こちらについて教えていただけますか。

吉良私たちは常に「いかにきれいに仕上げるか・いかに早く仕上げるか」を追求しています。ですから日々の作業の中で「こんな道具があったらもっと早くできるのに」「こんな機械があれば簡単に作業ができるはず」といったアイデアが浮かぶことがあるんです。それをその都度、会社に提案してきた結果ですね。

エンジニアじゃなくても、実際に作業をしている方だからこそ気づけることがあるんですね。例えばこれまでにどんなアイデアを出されたのでしょう。

吉良例えばブラウスの袖にタックをつける工程があるんですが、それまで両手を使ってやっていたのを、治具を改良することで片手で楽に作業できるようにしました。これはカーテンからヒントを得て思いついたんです。カーテンにはタックがあるでしょう。あれはどうやってつくっているのか調べて、それを応用してみたらどうかと考えたんです。

作業時間の短縮だけではなく、作業そのものを習得するまでの期間も短くなりますね。

吉良そうですね。人の技術は大切ですが、かといって経験を積んだ職人だけしかできない仕事ばかりだと、これもまた困ります。必要とする技術レベルをなるべく均等にしていきたいですね。

最後に、今後の目標にされていることがあれば教えてください。

吉良やはり、自分が学んできたものを次の世代にすべて伝えきりたいと思っています。私が子供の頃は、60歳くらいで人生終わりというイメージでした。でも今この歳になってまだまだ頑張りたいと思えるし、こうして任せていただいていることがとてもうれしいですね。

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