LGBTQと制服について考える。

LGBTQと制服について考える。
西原さつきさんインタビュー[後編]

2019.12.20

前編はこちら

カンコー学生工学研究所の研究員が、トランスジェンダー※1の西原さつきさんにインタビューを実施。後編では、西原さんの人生観やカンコーとの取り組み、今後の展望を伺いました。

※1 トランスジェンダーとは、「身体の性」と「心の性」が一致しないため「身体の性」に違和を持つ人

ひとりじゃない。
それを伝えるために、たくさんの人に会いにいく。

研究員:西原さんには全国の学校で学生の皆さんに講演をしていただいていますが、LGBTQを多様性のひとつとして子どもたちに知ってもらうためには、どのようなことが大切なのでしょうか?

 

西原:本当は自分の身近に当事者がいることが分かると一番いいと思います。どこかで他人事というか、メディアの中の出来事として捉えている部分があると思いますが、学校など身近に当事者がいることが分かると人って動くんですね。だから、どれだけ自分たちの肌で感じてもらえるか、最終的に自分事として捉えてもらうためのアプローチが大事なのではないかと思います。そういう意味では、どれだけメディアでたくさん取り上げられても、自分たちの身近な環境でないと現実味が湧かないと気がついて、私も足を使ってなるべく会いに行きたいと考えるようになりました。

 

研究員:実際に西原さんが会いに行き、講演を聞かれた方たちの反応はいかがでしたか?

 

西原:大人と子どもで反応は違うのですが、性別を男性から女性に性転換を行う話をすると、大人の方はしっかりと受け止めようと構えて話を聞こうとしてくれるのですが、子どもたちは良くも悪くも軽いです。壁が薄いというか、当たり前のことくらいの認識なのかもしれません。受ける質問の印象としては、大人は非常に現実的ですね。社会的なこと、政治的なこと、法整備と結びつけた質問が多いです。一方で子どもたちからは「初恋はいつですか」という質問が一番多かったです。恋愛面も含めて、私がどう生きてきたか、どのような人生観を持っているのかを聞かれるケースが多い気がしました。「どうしたら周りの目を気にせず、自分の好きなことができますか?」など、学生たち自身の悩みとリンクさせているように感じました。

 

研究員:数多くの質問や相談を受けて、学生からSNSのDM(ダイレクトメッセージ)でのやり取りもあったそうですね。

 

西原:ある子どもたちに向けた講演の際、「よかったらインスタグラムのフォローとかDMをください。」と話したところ、500人くらいの参加者のうちの5人ぐらいから「自分はLGBTQの当事者で、誰にも言えてなかったけど今回来てくれてすごく心が楽になった」というようなメッセージをいただきました。世の中には性的少数者が10.0%(図1)いると言われていますが、講演をした自分としても、本当に結構な割合でいるんだという驚きがありました。企業向けの研修の際にはトランスジェンダーの方が通称名の使用※2を認められていなかったのですが、講演によって会社から通称名の使用の許可が下りたということがありました。また、同じ境遇が自分ひとりでないということが分かると、その方の人生観も変化すると思います。私が主宰する乙女塾※3に来た当初は、悩んで表情が沈んでいた方が、次第に明るい表情になっていく様子を目にしたことがありました。そうした取り組みによって、その人の人生を後押しできていることを実感しています。

※2 トランスジェンダーの方は、自認する性別に対して名前に違和感がある場合、通称名を使用することがある。
また、戸籍上の名前を変更する際には、一定期間の通称名の使用実績が必要とされている。
※3 乙女塾とは、西原さんが主宰する「女の子らしく」をかなえるレッスンスクール。
講師陣がボイストレーニング、メイク、料理などの授業を通して、理想の自分に近づきたいというすべての人を応援しています。

図1
性的少数者の割合を表したグラフ
  • ・全国20代〜60代のうち10.0%が性的少数者に該当。

※4 シスジェンダーとは、出生時の戸籍性と同一の性別で生きたい方、生きている方
参考資料:株式会社 LGBT総合研究所「意識行動調査2019(事前調査)」(全国の20歳〜69歳の男女、34万7,816名の回答結果より算出)

学生や社会人の皆さんに向けて講演する西原さん。

講演後の西原さんへの質問と回答

 

Q1. LGBTQについて悩んでいる友達がいて、相談されましたが、何と言われるのがいいですか?
A1. 「教えてくれてありがとう」とか「また話を聞かせて」とか嬉しいと思います。

 

Q2. 自分もLGBTQの中の1つに当てはまりますが、それについてはあまり気になっていません。ただ、社会であまり受け入れられていないということが少し悲しく、それを解決する活動で簡単にできることはありますか?
A2. 政治でそういった公約を掲げている立候補者も増えてきているので、18歳になったら1票入れることが一番簡単に意見を反映される気がします。

 

Q3. 現在ご家族との関係はどのような感じですか?
A3. とても仲良しです。よく電話しています。

 

Q4. これから会う人、親しくなる人にはカミングアウトしますか?(彼氏、友達、仕事関係者など)
A4. します。親しくしたい人ほど伝えます。

 

Q5. 自分が男性と女性のどっちに近いかは、どうすれば分かりますか?
A5. 性別が一瞬で変わるボタンがあったら押しますか?と自問してみる。

 

Q6. 自分を貫いて生きていくためには、どうすれば良いですか?
A6. 色んな人の考え方を知ること。相手を見ていると、自分の良さだったり悪いところに気がつけると思うよ。

講演後に寄せられた学生たちの感想

  • ・LGBTQのことは言葉では知っていましたが、当事者の方に会って話を聞く機会がなかったのでとても貴重な経験となりました。

  • ・実はLGBTQの友達が身近にいたので、少し理解できました。

  • ・今できることを一生懸命にすることや、嫌なことは嫌と伝える大切さを教えてもらいました。

  • ・性別を変える、ということは勇気のいることなのに、自分に自信を持って生きている西原さんは凄くかっこいいです。

  • ・生まれ変わってもまた自分になりたい、と思えるような自分になりたいと思いました。

  • ・性別に関係なく、相手を思いやる・受け入れることの大切さを感じました。

経験を重ねることは、やがて自信につながる。

研究員:トランスジェンダーとして悩んでいる方から相談を受けた際は、どのような対応をされるのですか?

 

西原:例えばですが、学生の頃は人の目を気にしがちなので、性別を変えるような大それたことはできないと思うんです。ただ私は、自分の好きな道を貫いてきたタイプなので、周りに合わせた生き方をしていては自分ではなくなってしまうと思っていました。自分に無理をするのが嫌でしたし、自分のやりたいことや好きなことをして、その結果受け入れてもらえなかったり、離れてしまう人がいたとしても、比較的、割り切れるタイプでした。自分をさらけ出して本音で喋って、「それでもいいよ」って言ってくれた人と長くお付き合いしたいなと考えているので、何事も先に自分から正直に話すようにしています。
あとは恋愛でもすべてに共通すると思うのですが、経験値がないうちは何事も不安だと思うんですよね。トランスジェンダーの方からも「ホルモン治療が怖いです。」「性別を変えるのが怖いです。」「自信がないです。」「勇気がないです。」などとよく相談を受けるのですが、まだ何もやったことがないのに、自信も勇気も出てくるわけがないんです。やったことがないことを、どれだけ考えても仕方がないので、そういう時私は、とにかく経験することを薦めています。経験を積むことは自信につながるはずなので、悩んでいる人ほど経験することが大事だと思います。これはどこかで聞いた話なのですが、人間の悩みは「過去」か「未来」に関係しているらしく「将来変な人生になったらどうしよう。」「もし間違えたらどうしよう。」とか「あんなことやらなきゃよかった。」とか。今この瞬間の悩みというのはないそうなんです。そのような考え方を知ってから、あまり先のことを考え過ぎずに、今この瞬間を最大限に良いものにしようと全力で頑張って、その積み重ねが未来の自分につながると信じて生活するように話しています。

思いはひとつ。すべては、子どもたちの未来のために。

研究員:西原さんの話を伺っていると、子どもたちとの関係づくりに重きを置いているように感じたのですが、それには理由があるのですか?

 

西原:私たちトランスジェンダーは、自分の性別を変えるのと引き換えに生殖機能がないんですね。本来人間って親でいる時間の方が長いはずですが、自分は子どもをつくることができないので、親ではない時間を恐らく一生過ごすことになると思うんです。勿論覚悟の上ではあったのですが、結構寂しくなるんじゃないかなと思い、代わりに何ができるか考えた時に、生きてきた証として次世代につなげることしかないという結論に行き着きました。そして、自分なりに何かの形で残したいと考えている中で、今エネルギーがすごく子どもに向いているんだと思います。

 

研究員:西原さんとカンコーの取り組みはこれからも続きますが、新たに取り組みたいことや、これからの夢はありますか?

 

西原:実はカンコーさんと様々な取り組みができるようになって、生きていくのがすごく楽になり、人生観もかなり変わりました。今後についてはまだ漠然としているのですが、「青春」と「未来」、そして「子ども」と、その周辺をつなげていくのが制服だと思っているんですね。私は「青春」がすごく好きなのですが、青春時代の真っ只中にいる学生たちの未来や夢を応援していきたいです。今まさに学生生活を送っているトランスジェンダーの方々のためにも、つらい思いを少しでもしなくて済むよう、商品開発なども含めて様々な提案ができたらと考えています。
また、イベントの企画や学生たちが集まる場をつくりたいですね。私が活動している乙女塾をはじめ大人向けの場所が多いので、学生たちが保護者の方と一緒に足を運んでいただけるような場やコミュニティを提供することが理想です。そして、とにかくたくさんの学生たちに会いに行きたいです。もし実施する機会があれば、自分らしい生き方ができるような授業を考えて、学生の方々と直接接する機会がつくれたらいいなと思います。

 

研究員:これからも制服をつくる上で、ご意見を伺いながら製品開発に活かしていければと思います。そして、私たちは制服メーカーではありますが、「ものづくり」だけでなく、「ひとづくり」でも益々力を入れていくので、学生たちの未来につながるよう、西原さんとともに応援していきたいと考えています。
本日は貴重なお話をありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

西原さつき

俳優・講師。男子として生まれるが幼少期から強い性別違和を覚え 16歳からホルモン治療を開始。タイにてSRS(性別適合手術)後、トランスジェンダーの世界大会「Miss International Queen 2015」にてフォトジェニック賞を受賞。NHKドラマ「女子的生活」トランスジェンダー指導。

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