LGBTQについて考える。
西原さつきさんインタビュー[前編]

2019.12.16

カンコー学生工学研究所の研究員が、トランスジェンダー※1の西原さつきさんにインタビューを実施。前編では、制服に対する考え方や近年のLGBTQを取り巻く環境の変化について伺いました。

※1 トランスジェンダーとは、「身体の性」と「心の性」が一致しないため「身体の性」に違和を持つ人

制服は青春時代をつめこんだ、ひとつの文化。

研究員:近年、カンコー学生工学研究所では、学生たちの多様性に対応した制服づくりを通じて、快適な学生生活の実現を目指す研究を進めています。そして今回、制服に対する考え方やLGBTQを取り巻く環境の変化について、西原さつきさんにお話を伺います。どうぞよろしくお願いします。

 

西原:よろしくお願いします。カンコーさんとのお付き合いのはじまりは2018年でしたね。カンコーさんが主催した学校の先生向けの講演会で「LGBTを考える」をテーマにお話しさせていただきました。

 

研究員:あれから1年以上経ったんですね。トランスジェンダーの方から制服にはあまりいい思い出がないという話を伺ったことがあるのですが、西原さんは学生服メーカーと取り組むことに抵抗はなかったのですか?

 

西原:私はなかったですね。確かに学生の頃は詰襟に抵抗がありましたが、セーラー服など女の子用の制服への憧れは強かったので、声をかけていただいた時は気分が舞い上がったというか、素直に嬉しかったです。というのも感覚的なものかもしれませんが、制服って、そこに青春時代が入っているんです。特に私の場合は学生時代が一番つらくて、ある意味、青春時代が抜け落ちていたので、制服というアイテムの力を使ってもう一度取り戻すことができるのではないかと考えました。そういったこともあり、他のファッションメーカーさんのお仕事とはまた違ったモチベーションがありました。

 

研究員:それは私たちとしてもとても嬉しいです。詰襟に抵抗があったとのことですが、そのような方のためにも制服に選択肢を用意して、自由に自分らしい組み合わせをしてもらえるようになったらと考えています。

 

西原:やはり制服って選択の余地が少ないんですよね。私も詰襟しか選べなかったので、選べる権利があるかどうかで当事者としても精神的にずいぶん違いますし、組み合わせの多さやちょっとしたアイテムの追加で、そういった悩みを緩和できるのではないかと思いました。

 

研究員:制服をなくせばいいのではないかという意見もある一方で、制服を着たいという方がいらっしゃるのも事実です。西原さんはどうお考えですか?

 

西原:制服がなくなるのは、嫌です。なぜかと聞かれればやはり制服は可愛いですし、好きだからですかね。制服がなくなると、着物がなくなるのと同じくらい悲しいです。ひとつの文化がなくなってしまうぐらいとても嫌なことです。私たちのようなトランスジェンダーは自分の体にコンプレックスを持っていることが多いですが、それを魅力に変えてあげられるような、すごい力を制服は持っていると思います。

2019年展示会の様子
写真:アイテムの展示とともに当事者の声を形にして紹介。

契機となったミス・インターナショナルクイーン出場※2

研究員:自身の違和感に気づいた後、学園もののテレビドラマで性同一性障害について初めて知ったと伺いました。そこでは、私は「この子」と同じかもしれないという、ある種ほっとしたような感情もあったのですか?

 

西原:そもそも心と体の性といったものや性同一性障害という概念がなかったので、自分のことをぼんやりとおかしな男の子だと思っていたのですが、世の中にそういう考え方があるということを知って、とても楽になりましたね。点と点がつながった感じでほっとしました。

 

研究員:西原さんは、16歳からホルモン治療を開始して、就職活動のタイミングで女性として生活を切り替えたんですよね。

 

西原:はい、就職先では女性として営業職に就き、お客様に接していました。面接の時にはすべてを話して入社したものの、周囲にはトランスジェダーということをオープンにしていなかったんです。自分の人生に嘘をつきたくないから今の姿になったのに、今度は生まれながら女性であるかのように振舞って、本当のことを隠して生きていました。この生き方のままだとどの道嘘をついているのと変わらず、女性として生まれたかったという悩みを抱えたまま死んでしまう。そうではなく、もっと自分の生き方を肯定できる、この人生だから楽しかったと思えるような人生を送りたいと思いました。

 

研究員:そんな時に、タイで行われる世界最大規模のトランスジェンダーのコンテスト「ミス・インターナショナルクイーン」を知ったんですね。

 

西原:そうです。自分の人生に何が必要か考えていた時に、この大会を知りました。最初は何か変われるかもしれないという漠然とした動機でしたね。ミス・インターナショナルクイーンは、タイのパタヤで行われている歴史ある大会です。タイはトランスジェンダーの文化が日本よりも15年ほど先に進んでいて、そのコンテストはトランスジェンダーの舞台も常設されているティファニーズショーという大劇場が主催しています。世界各地から集まった参加者は、この大会で結果を残して生活環境を大きく変えようと人生を懸けているような印象を受けました。審査は、容姿は勿論、立ち居振る舞いや知性、コミュニケーション力をもとに総合的に判断されました。

 

研究員:結果はどうでしたか?

 

西原:私はフォトジェニック賞(Miss Photogenic)でした。優勝を狙っていたので、その当時は少し複雑な心境でしたが、今振り返るとこれを機に私自身も大きく変わるきっかけとなりました。

※2 ミス・インターナショナルクイーンとは、タイで開催される世界最大規模のニューハーフのビューティーコンテスト。
西原さんは、2015年大会にて、本選上位10名入賞、Miss Photogenicを受賞。

LGBTQを取り巻く環境の劇的な変化。

研究員:個人としては、ミス・インターナショナルクイーンでのフォトジェニック賞の受賞が大きな契機になったとのことですが、昨今メディアや社会的にもLGBTQに関する活動が盛んに取り上げられるようになった印象を受けます。西原さんご自身にも変化はありましたか?

 

西原:ここ2、3年は、自身の仕事量も増え、プライベートにおいても圧倒的に呼吸がしやすくなった感覚があります。昔は性別を変えるというと、タブー視されているような部分があったのですが、トランスジェンダーが社会的にも認知されて、それを応援する世の中の風潮を感じています。法律の整備や医療、企業との取り組みも含めて、もう別の星に来てしまったと感じるぐらいの大きな変化です。社会的に見ると、東京オリンピックの誘致決定によって、「性的少数者への配慮」というオリンピック憲章が組まれたことが大きかったと考えています。そこから政府が動き、企業が動き、世の中が動き、社会が大きく動き始めました。

 

研究員:西原さん個人としてだけでなく、日本全体が変わってきているんですね。世界的な動きと比べるとどうでしょうか?

 

西原:やはり世界と日本を比べた時には、LGBTQに関する取り組みが遅れているという印象はあります。特にLGBTQの中でも、レズビアンとゲイに関してです(図1)。同性婚が認められている国もあるのに対し、日本ではまだ偏見・差別も強いように感じます。ただ、トランスジェンダーに関しては、日本は進んでいる印象があります。その理由として、ひとつは戸籍が変えられるということ。社会的に浸透しているタイにおいても戸籍を変更することはできません。ふたつめは病院など医療の分野が発達していることです。私がレッスンを行っている乙女塾※3の生徒にはシンガポールや中国、韓国などの方もいますが、自国で治療が受けられないという理由から日本に移住されている方もいます。そのような点でトランスジェンダーの当事者としては、日本という環境が非常に恵まれていると感じています。

 

研究員:そのような日本の社会に対して、これから期待することはありますか?

 

西原:個人的に感じているのは、新しい考え方や個性に対して柔軟性が高まってほしいということです。よくダイバーシティという言葉とLGBTQを結びつけられますが、性別のことに関わらず、もっともっと人間の多様性、ひとりひとりの違いを認められるような国になってくれたら、とても嬉しいです。

※3 乙女塾とは、西原さんが主宰する「女の子らしく」をかなえるレッスンスクール。
講師陣がボイストレーニング、メイク、料理などの授業を通して、理想の自分に近づきたいというすべての人を応援しています。

図1
性的指向の割合を表したグラフ
  • ・全国の20〜60代のうち7.0%が性的指向少数者に該当。

※4 無性愛とは、他者に対する恋愛感情の欠如、または性的な行為への関心や欲求が少ない、あるいは存在しないこと
※5 クエスチョ二ングとは、自身の性的指向および性同一性(性自認)を探している状態の方
参考資料:株式会社 LGBT総合研究所「意識行動調査2019(事前調査)」(全国の20歳〜69歳の男女、34万7,816名の回答結果より算出)

乙女塾でのボイストレーニングやメイクレッスンの風景。西原さんはボイストトレーニングを担当し、各授業とも、その道のプロがサポートしている。

次回、後編では、西原さんの前進し続ける生き方にさらに踏み込み、今後のカンコーとの取り組みに関する展望をお伺いします。

西原さつき

タレント・女優・「乙女塾」代表。男子として生まれるが幼少期から強い性別違和を覚え 16歳からホルモン治療を開始。タイにてSRS(性別適合手術)後、トランスジェンダーの世界大会「Miss International Queen 2015」にてフォトジェニック賞を受賞。NHKドラマ「女子的生活」トランスジェンダー指導。

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