カンコー学生工学研究所では、時代や世の中の変化に合わせて新たな価値を創出するため、学生生活に関わる様々な調査・研究を行っています。昨今、生徒たちの「多様性」について頻繁に語られる中、特に「性の多様性」を知るために、私たちはLGBTQの当事者や専門家、学校関係者の声を聞いてきました。その声を多くの方に届けると同時に、生徒たちにとって制服がどうあるべきかを考え、商品・サービスの開発を行っています。 今回は、その一環として全国の公立中学校の先生を対象に行った「LGBTQへの配慮についてのアンケート調査結果」とカンコーの取り組みについて紹介します。
LGBTQの生徒への配慮、学校の現状を知る。
調査の結果を見ると、学校での配慮として一番多いものはデザイン変更や女子スラックス※の導入といった「制服」に関する項目で、二番目は本人が望む性の制服や体操服の着用を認めるという「服装」に関する項目でした(図1)。服装規定について具体的に聞いたところ、「自認する性の制服や体操服の着用を認める」が最も多く、次に多かったのが、「冬服と夏服の着用期間を定めないなど、期間を見直した」というもので(図2)、ルール自体を柔軟に変更していこうという動きもあります。 制服デザインについては、半数以上が「見直し・変更済み」「見直し・変更を行っている途中」「見直し・変更の予定がある」と回答しています(図3)。具体的には、女子スラックスの導入、ブレザー型の採用、制服の選択制(スラックスorスカート、ネクタイorリボン)、男女による商品名表記を避ける(タイプA・タイプB)等が挙げられました。 また、授業の中でも「性の多様性」について取り上げる学校が増え、76%の学校が「取り組み済み」または「取り組み予定」と回答しています(図4)。そして、LGBTQの生徒のため、約半数の学校でサポートするための体制を整えていることも分かりました(図5)。
※女子の体型の特徴に合わせて設計したスラックス
- ・「制服のデザイン変更」や「服装を本人の意思に任せる」等の服装に関する配慮が最も多く、次いで「トイレ」「更衣室」等の設備面に関する配慮が多く見られた。
- ・自認する性別の制服・体操服の着用や、衣替えの期間の見直しなど、現行制服の規定内での配慮が多く見られた。
- ・半数以上の学校が制服のデザインの見直しをする方向で動いている。
- ・既に授業で取り組んでいる学校の中には、外部の有識者や講師を招いて講演会や研修を行っているケースもある。
- ・「道徳」での取り組みが最も多く、次いで「保健体育」が多く見られる。
- ・チームや体制が整備されている学校の割合はおよそ半数であり、多くの学校で体制の整備が進みつつある。
資料: カンコー学生工学研究所2021年8月「制服におけるLGBTQへの配慮とこれからの制服に求める役割・価値・機能性に関するアンケート調査レポート」
全国の公立中学校1,194校に調査実施
LGBTQの生徒に配慮したカンコーの制服づくり。
年々増えつつある学校制服のモデルチェンジに際して、現在カンコーでは性差の少ないデザインや選択肢を増やすための様々なアイテムを開発しています。「性差の少ない制服」と「従来の制服」の違い(図6)に関して、ブレザーを例に挙げると、性差の少ない制服では、体のラインが出にくいボックス型シルエットや男女どちらの体型でも着用できるサイズ設計を提案しています。また、従来の制服では、スラックスとスカートは男女でチェックの柄や大きさが異なるデザインが多かったのですが、最近は同じ柄のデザインを提案することが増えています。選択肢を増やすアイテム(図7)に関しては、代表的なものとして、女子スラックス※があります。カンコーでは、女子の体型に合わせながらも、外観は男女で差が出にくいシルエットを開発しました。2021年度には、女子スラックス※は300校以上の学校に新たに採用されています(図8)。そのほかにも、前合わせを自由に選べるブレザーや男女兼用で着用できるカーディガン、ベストなどのアイテムを用意しています。
※女子の体型の特徴に合わせて設計したスラックス
出典:菅公学生服株式会社実績(2021年2月)
性の多様性への理解を深める環境づくり。
カンコーでは制服アイテムの企画・開発に加えて、講演会や情報発信など学校における環境づくりのサポートも行っています。 講演会では生徒・先生・保護者を対象に、LGBTQの当事者の方や専門家をお招きし、当事者自身の経験、専門家ならではの知識をもとに、「性の多様性」について考える機会を提供しています。 情報発信に関しては、これまでカンコー学生工学研究所が行ってきたLGBTQの当事者の方、生徒を対象にした調査をレポートとしてまとめ、学校関係者や教育委員会をはじめ、一般の方にも公開しています。 LGBTQの生徒に配慮するにあたり、どのようなところに当事者の生徒が困っているか分からないという先生の悩みに対し、これらの情報を通して学校のルールを変更するか否か、また、その必要があるのかということなど、新たな気づきの提供ができればと考えています。
学校関係者と共に、多様性に配慮した快適な学校生活を目指して。
現在、制服アイテムだけでなく、学校内における施設面の工夫や講演会の開催など、学校ごとに「性の多様性」について理解を深める様々な取り組みが進められています。 カンコーでは、2015年に文部科学省から発出された「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について」の通知以後、取り組みを進めてきました。その当時と比べると先生から相談を受ける件数も多くなりました。しかし、それぞれの学校ごとに異なる悩みを相談いただく中で、まだまだ課題が残されていることも実感しています。 カンコーはこれからも学校関係者の方々と共に、多様性に配慮した快適な学校生活の実現に向けて考え、制服・体操服はもちろん、環境づくりについても研究を続けていきます。