LGBTQと学校生活について考える。

LGBTQと学校生活について考える。
中塚幹也先生×西原さつきさん[後編]

2021.12.24

前編はこちら

 

カンコー学生工学研究所の研究員が、岡山大学大学院教授で岡山大学ジェンダークリニック医師の中塚幹也先生とトランスジェンダー※1の西原さつきさんに、お話を伺いました。
後編では今の子どもたちの実態や、性のあり方をはじめとする多様な社会について考えます。

※1 トランスジェンダー:「身体の性」と「心の性」が一致しないため「身体の性」に違和を持つ人

中塚幹也

岡山大学大学院保健学研究科 教授
岡山大学ジェンダークリニック 医師
GID(性同一性障害)学会 理事長

 

性別違和の悩みを持つ人のための専門機関である岡山大学ジェンダークリニックで、1988年の開設時より診療を行う。セクシュアルマイノリティ、特に性同一性障害・トランスジェンダーの医学的・社会的課題の解決に向けて、講演会の実施や本の執筆も行っている。

 

著書 「封じられた子ども、そのこころを聴くー性同一性障害の生徒に向き合うー」(ふくろう出版)
文部科学省通知「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について」委員会委員

西原さつき

俳優・講師
「乙女塾」ボイス担当

 

幼少期より男性として性を受けたことに違和感を覚え、16歳から女性ホルモンの投与を始める。大学卒業後、地元の広告代理店に3年間勤務し、26歳で性別適合手術を受ける。2016年、性別や年齢を問わず自分らしさを育む学びの場「乙女塾」を創設。現在までの生徒数は約700人に及ぶ。

 

テレビ ドラマ10「女子的生活」(NHK) トランスジェンダー指導、出演
映画 「ミッドナイトスワン」 脚本監修
著書 「女の子って魔法だよね」(厚有出版)

調査から見えてきた、多様な性のあり方と子どもたち

カンコー:子どもたちに「友人から『心の性』や『好きになる対象の性』について相談を受けた経験はありますか?」とアンケートを取ったところ、高校生の約20%以上が「受けたことがある」と答えました。
一方、非当事者の大人に同じ質問をしたところ、40代以上は相談を「受けたことはない」と回答した人が大半でした。

図1
友人から「心の性」や「好きになる対象の性」について相談を受けた経験はありますか?(単数回答)

資料:カンコー学生工学研究所
2020年11~12月 中学生・高校生 3,116名に調査実施
2020年7月 20代以上のセクシュアルマイノリティ非当事者800名に調査実施

西原さん: 年代が上の方には正直なんだか怒られそうという印象があって、私も最初は友人に言った気がします。

 

 

カンコー:「友人から、セクシュアルマイノリティであると告げられたとしたらどう感じると思いますか?」というアンケートからも、中学生・高校生から20代の若者層はポジティブな反応を示し、年代が上がるごとにネガティブな反応になっていくことがわかります。

 

図2
友人から、セクシャルマイノリティであるとつげられたとしたらどう感じると思いますか?(単数回答)

資料:カンコー学生工学研究所
2020年11~12月 中学生・高校生 3,116名に調査実施
2020年7月 20代以上のセクシュアルマイノリティ非当事者800名に調査実施

当事者も、受け止める側も、少しずつ歩み寄っていければいい

中塚先生:カミングアウトを受けた人がどういう反応をするかということが、当事者の精神状態に大きく関わってきます。
家族へカミングアウトをしたときの精神状態についての調査では、「カミングアウトをしたかどうか」よりも当事者が「どういう状態でカミングアウトをしたか」によってその人の精神状態が違ってくることがわかりました。

 

たとえば、「自分のタイミングでカミングアウトをした」と回答した人の精神状態は良好なのですが、「親に問い詰められてカミングアウトをした」と回答した人はうつ状態になる傾向があります。

 

また、特に「父親にカミングアウトをして理解してもらえた場合」の精神状態はすごくいいのですが、父親から「理解できない」といったことを言われたり、反対されたりした場合、うつが高い確率で発生することもわかりました。

 

 

西原さん:傷つくことを言ったり、頭ごなしに否定したりはしないでほしいですが、一方で、自分はすごく理解あるよ、すごく応援するよということも無理して言わなくていいと思うんです。

 

多様な性の問題は、「白か黒か」「善か悪か」で切り分けられるような単純なものではないので、「そういう考え方もあるんだな」というニュートラルなギアの入れ方ができるといいですね。

 

当事者の方にも「1パーセントでも前に進めている感覚があればいいんだよ」ということを伝えています。受け止める側もいきなりは難しいかもしれないから、少しずつ少しずつ歩み寄っていくんだよ、と。

 

当事者の方も、そうじゃない方も、いい意味で力の抜き加減を覚えられるといいんじゃないでしょうか。

 

性のあり方は多様であることを知って、そこからどう進んでいくか

カンコー:西原さんは学校での講演会もされていらっしゃいますね。

 

 

西原さん:ここ2、3年で中高生に向けてお話しする機会がとても増えました。

 

 

カンコー:「学校の授業で、性の多様性やセクシュアルマイノリティについて学んだことはありますか?」という調査をしたところ、中学生で40%が、高校生で約50%が「ある」と回答しました。
今後こういった教育が進んでいくと、社会はどのように変わっていくでしょうか。

図3
学校の授業で、性の多様性やセクシュアルマイノリティについて学んだことはありますか?(単数回答)

資料:カンコー学生工学研究所
2020年11~12月 中学生・高校生 3,116名に調査実施

中塚先生:今は、困っているときに助けてもらえるように、また、制度を変えてもらえるように、トランスジェンダーという人がいるということをまずは知ってもらうことが必要なのですが、今の教育が20年30年続くと多様な性について十分知識や理解を持った人たちが社会の中心になってくるので、時代も変わっていくと思います。

 

 

西原さん:例えば、大人の方に対しては60分ぐらいかけて「LGBTとは」とか、「身体と心の性が一致していないトランスジェンダーと呼ばれる人がいるんです」とか、「多様な性のあり方を認めようという世の中になってます」といったことをお話をするんですが、子どもたちにはそういった内容は5分ぐらいで伝わっちゃうというか、その話はもう知っているよ、わかってるよって顔やリアクションをされる気がします。

 

子どもたちに対して話をするときの方が、そういった世の中の流れを前提として、そこからどう進めていけたらいいかといった、もっと先の話ができるという感覚があります。

 

 

中塚先生:これからは、セクシュアルマイノリティを理解しようとわざわざ言わなくても、みんながすでに理解しているという状態に変わっていくのではないでしょうか。

 

 

西原さん:以前のテレビドラマではトランスジェンダーの方が主人公であることが多かったのですが、最近では主人公の周りの登場人物として当たり前のように出てくるんです。トランスジェンダーについての説明がわざわざなくて、周りの人たちも当たり前に受け止めている状態でストーリーが進んでいく。それがすごくいいなと思っていて。

 

 

中塚先生:やはりドラマや映画の影響力はすごく大きいと思います。海外のドラマだと、例えば黒人も白人もアジア系もだいたい同じぐらいの配役で出てくることが多い。それを小さい頃から見てるから、実際の生活でも当たり前に受け入れられる。
トランスジェンダーも、いろんな登場人物がいる中のひとり、という立ち位置が自然になっていくといいですね。

性だけではない、人のあり方が多様な社会へ

カンコー:みんなが生きやすい社会をみんなで実現していくために、大切なことはなんでしょうか。

 

 

中塚先生:結局はやはり性の多様性だけではなく、多様性そのものを理解しあうことが大切だと思います。

いろんな障がいや病気を持っている方もいるし、人種の違いなどもありますが、自分も含めいろんな人がいるし、いろんな人がいていいんだというダイバーシティー&インクルージョン※2の考え方を持てるかどうかですよね。

※2 性別や年齢、国籍、人種、職歴、障害の有無など、目に見える違い/見えない違いが受け入れられ、その個々を活かし合う考え方

 

 

西原さん:講演会をしていても、これって性の話だけじゃなくて、他にも当てはまるよねっていうところまで落とし込めると、個人的には成功だなと思います。

 

 

中塚先生:実際、多様な社会のほうが変化にも強いです。いろんな考え方の人がいたり、いろんなことができる人がいたり、いろんな性格や特徴を持ってる人がいるからこそ、社会というものは強いし、生物としても強いと思います。

 

日本はどちらかというと、画一化して効率を上げることを重視しがちだけれど、その効率には少し目をつむっても、いろんな人がいる、そっちの方が楽しい社会だよ、と。

 

 

西原さん: 私は否定のない環境がいいと思っています。私自身、否定をされることが多い時期もありましたが、「男なら〇〇はだめだよ」とか「〇〇なんてやめた方がいいよ」といった言葉を素直に聞いていたら、今の自分の幸せは手に入っていなかったと感じています。

 

自分が否定しようとしていることが、もしかしたら相手の幸せになるかもしれないということを一度考えてみてほしいなと思います。まずは自分が思うようにやってみて、そのあとに修正したほうがいいところは、修正していくという感覚でしょうか。あんまり頭ごなしに否定するのではなく一度思いや考えを聞いてみてほしいですね。

 

 

カンコー:貴重なお話をありがとうございました。

これからも、様々な立場の方と未来を見据えながら、子どもたちのためにできることは何かを考え続けたいと思います。

 

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