既成概念にとらわれない暑さ対策。

既成概念にとらわれない暑さ対策。
「日陰を着る」体操服。

2021.04.20

紫外線から学生たちの健康を守る。

年々上昇する平均気温とともに、紫外線量も増加傾向にあります(図1)。そのような影響から、学生生活においても、屋外での学校行事、体育、部活中など、熱中症で病院に搬送される事例が毎年発生しています。これまで夏の暑い時期は半袖シャツを着るのが当たり前とされてきましたが、半袖シャツの場合、袖のない部分に直接日差しを受けることになります。紫外線から学生たちを守るために、半袖シャツのままで良いのか?長袖シャツを着用する方が効果的ではないか?そのような仮説をたてカンコー学生工学研究所ではこれまでの既成概念にとらわれない、夏の暑い時期でも紫外線から学生たちを守る体操服として長袖シャツの新たな開発を開始しました。

図1
紫外線の経年変化
  • ・1年の紫外線量は、1990年以降、徐々に増加している。

資料:気象庁HP「紫外線の経年変化」を基に作成 ※観測地:つくば市

紫外線を遮蔽(しゃへい)する、日陰を着るシャツ。

長袖シャツの着用が半袖シャツと比べて本当に優位性があるのか、暑い状況でも快適性を保つことができるのか。その検証を行うため、信州大学に協力をいただき、実験の方法を検討。通常の長袖シャツ、半袖シャツの他に、紫外線遮蔽効果の高い素材を使用した長袖シャツを制作し、比較実験を行うことにしました。紫外線遮蔽率が高い長袖シャツには、カンコー学生工学研究所が独自に開発したミエンヌという生地を採用(図2)。ミエンヌは、それまでも「透け防止」という観点から既に体操服の素材として利用されてきました。今回、そのミエンヌと長袖シャツを組み合わせた実験用のシャツは、「日陰を着る」をコンセプトとし、「日陰シャツ」と名付けました(図3)

図2
ミエンヌの特長

体操服や通学用シャツに透け防止の機能を持たせた素材で、紫外線遮蔽率も高く、半袖タイプに加え、日焼け防止の目的で利用されている長袖タイプもあります。2020年度には、グッドデザイン賞のベスト100と特別賞であるグッドフォーカス賞[技術・伝承デザイン](中小企業庁長官賞)を受賞。生徒、保護者、教員において課題であった白シャツ特有の“透け”を糸レベルの改良と快適性を失わない編み構造の開発により、高いレベルで解決していると評価を受けました。

  • ・「一般的な透けにくい糸」(図2-1)はセラミックス微粒子が全体的に分散して練りこまれているのに対して、「ミエンヌ」(図2-2)は糸中心部にセラミックス微粒子を集中させ、より光の通過をブロックすることで、高い透け防止機能、UVカット機能を実現している。
図3
日陰シャツの仕様
  • ・最適なシャツの仕様、素材について信州大学と検討し、図の白色部分に「ミエンヌ」素材を採用。水色部分に通気性の高いメッシュ素材を使用し、衣服内のこもった熱を放出しやすい仕様とした。

信州大学×名古屋大学×カンコー学生工学研究所。

実験は、気温・湿度・日射量などを人工的に管理し、常に同一環境のもとで行う必要があります。そのような暑熱環境を作ることのできる施設として協力いただいたのが名古屋大学でした。名古屋大学には暑熱環境の施設とその設定を、信州大学には実験の方法をアドバイスいただき、三者共同で実験を行いました。
被験者には、29℃の暑熱環境下を再現した試験室にて、①一般的な半袖シャツ②一般的な長袖シャツ③ミエンヌ素材を使用した日陰シャツの3パターンを着用してもらい、踏み台昇降運動を実施。運動後の被験者への官能調査や皮膚温調査をもとに比較しました(図4)
官能調査の結果、半袖シャツと日陰シャツを比較すると日差しを強く感じたのは半袖シャツとなり、日陰シャツの優位性が明らかになりました。皮膚温調査でも、肩の部分は日陰シャツの方が低い数値を記録し、紫外線遮蔽率の高い素材を使った効果が表れています。しかし、腹部や肘の皮膚温調査に関しては、日陰シャツが少し高い数値を記録しており、優位性が認められませんでした。これは、衣服内に熱がこもった影響であり、今後改良していくべき点だと捉えています。

図4
実験概要

・気象条件(気温、湿度、日射量)が同一環境となる試験室にて被験者実験を実施。
・着用するシャツは、①一般的な半袖シャツ②一般的な長袖シャツ③ミエンヌ素材を使用した日陰シャツを用意。
・3つの着衣条件に対して、各被験者(全4名、男性、19〜22歳)は1日1条件、同一時間帯に実験に参加。踏み台昇降運動を行った。
・運動後、着衣条件に対して、官能評価(感覚的評価)、皮膚温を計測。

  • ・官能調査:一般的な半袖シャツの方が日陰シャツより日射を強く感じていた。
  • ・皮膚温調査:日射が強く当たる肩上面では、日陰シャツが一般的な半袖シャツより皮膚温が低く、日射遮蔽生地で覆うことで局所的であるが熱ストレスを低減できた。ただ、腹部と肘で熱がこもる結果があり、その部分をどう改善するかが課題。

変わりゆく環境を見つめ、体操服の最適解を考えていく。

実験を終えて、衣服内の腹部と肘の部分にこもった熱をどう放出するかという課題を解決するために、まずは日陰シャツの素材やパターン設計を研究していきます。具体的には、“軽量”をテーマに新たに開発したミエンヌエアーという素材の採用や、袖下や背中の部分に通気性の高い素材を入れる方法を検討するなど工夫と改良を行う予定です。
最終的に、この日陰シャツの研究・開発を通して、学生たちが日差しの強い夏場でも安心して、体育や部活動などに取り組むことができる体操服を提供したいというのが私たちの思いです。さらには、日差しの強い時や屋外に出る時は日陰シャツを、体育館や日常生活など日光が当たらない時には半袖シャツを着用していただくなど、体操服の選択肢を広げていくことも視野に入れています。カンコー学生工学研究所では、気象条件など常に変わり続ける環境下において、子どもたちのために何がベストかを考え、新しい体操服のあり方を模索しながら、より良い商品開発を目指していきます。

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