学生たちに迫る熱中症の危機。
ウェアラブルの可能性を探る。

2020.02.12

増加し続ける熱中症件数と猛暑対策の必要性。

近年、地球温暖化に伴う記録的な猛暑などの影響により(図1)、学校生活における熱中症件数は増加傾向にあります。2019年独立行政法人日本スポーツ振興センターの調査によると、2018年度の学校管理下での幼・保〜高等学校・高等専門学校の熱中症における医療費給付件数は1年間で「7,000 件以上」を記録(図2)。これには学校関係者も危機感を持っており、カンコー学生工学研究所でも社会課題として捉え、猛暑対策の必要性を感じています。そこで、学生たちの快適な生活を安心・安全面から支え、猛暑による体調不良を防止するための取り組みを進めています。2019年の展示会でもいくつかの対策案を発表しており、中でも注力しているのがウェアラブル※1技術の活用です。一般的にウェアラブル技術は、着用者の生体情報や外部環境データを記録し、分析に役立てることで、日常生活のクオリティを上げるという目的がありますが、スポーツや医療の分野をはじめ活用の幅が広がり、急速に普及しています。それを学生生活にも取り入れようと、これまでも一緒に様々な取り組みを行ってきた「東レ株式会社」(以下、東レ)とパートナーを組み、両社の技術とノウハウを活かして横断的に開発を行う「カンコー ウェアラブル」プロジェクトがスタートしました。

※1 ウェアラブルとは装着型のコンピューター搭載機器のこと。
装着して利用できるため、Wear(着る)と、Able(〜することができる)から、Wearableと名づけられた。

図1
最高気温35℃以上の猛暑日 年間日数
  • ・全国的に猛暑日の年間日数は増加している。

参考資料:気象庁「全国(13地点平均)の猛暑日の年間日数」

図2
2018年度の学校における熱中症発生件数
  • ・学校における発生総数は7,000件を超え、「中学校」「高等学校等」で大半を占めている。

参考資料:独立行政法人日本スポーツ振興センター「学校の管理下の災害 [令和元年版] 第二編 基本統計 (負傷・疾病の概況と帳票)」(男女、82,429名の回答結果より算出)

衣服型に特化した「カンコー ウェアラブル」の開発。

カンコーが学生服・体操服の製造・販売を開始した当時から、東レとは素材や製品の開発に取り組んでおり、数多くの高付加価値品を生み出してきました。その長年の実績に加えて、東レの繊維メーカーとしての高い技術力や先端素材を生み出してきた最新設備などは、「カンコー ウェアラブル」の開発を進める上でも大きな強みになると考えました。
一般的なウェアラブル端末の形状は、手首に巻く「腕時計型」、レンズ部分に映像を流すこともできる「メガネ型」などがありますが、本プロジェクトでは、学生が普段から身に付けることのできる「衣服型」の活用を研究しています。そして現在は、東レがNTT(日本電信電話株式会社)とともに開発した、着るだけで生体信号の計測ができる機能素材「hitoe®※2」を使用したウェアラブルシステムの検証を進めています(図3)。特徴としては、hitoe®を搭載したシャツやベルトを身につけるだけで、心拍数などのより正確な生体情報データの連続計測が可能になります。収集した「心拍数・筋電※3・加速度」などの普段は意識しない情報を蓄積・分析することで、猛暑対策だけでなく、効率的なスポーツトレーニングや体調変化の管理、緊張度合いの察知など、目に見える形で活用することができます。この生体情報データを計測できるウェアラブルの技術を、日頃の学生との接点を活かして学生生活の中で幅広く活用していくために、協議を重ねながら研究・開発を行っています。

※2 機能素材hitoe®は東レ株式会社と日本電信電話株式会社が共同で開発した機能繊維素材であり、両社の登録商標です。hitoe®は医療機器ではありません。
※3 筋電とは、人の筋肉が収縮する際に発生する微弱な電気信号のことを言います。

図3
カンコー ウェアラブルの着用イメージ
図4
東レのテキスタイル・縫製品の開発拠点 「テクノラマGⅢ※4」での実験風景

※4 テクノラマGⅢ…従来の人工気象室「テクノラマ」の機能を拡充し、新規評価・解析設備の導入と、社内外との連携強化により高付加価値商品の開発を推進する東レの最新施設。

さらなるウェアラブル活用の探求。

学生生活での具体的な活用方法を検討するために、カンコー学生工学研究所ではウェアラブル端末を実際に着用してデータを計測。学生たちの生活環境を再現し、データを収集・解析しました。
その上で現在考えている活用法は主に以下の3つです(図5)

 

①体調管理
猛暑対策をはじめ、日々、学生たちの体調変化を分析することで、危険な状態を未然に防ぎます。加えて、学生たちの心拍の上昇を知り、過度の緊張状態など、学校生活でのストレスや心の動きを把握、変調を察知することができれば、多感な学生の心と身体のケアにも活用できると考えています。

 

②安心機能
GPS機能※5は、登校・下校の履歴を記録するだけでなく、子どもの安全を守る「見守り機能」としても有効です。迷子・行方不明者の早期発見や昨今増えている子どもの連れ去りを抑止する効果も期待できます。

 

③運動技術向上
体育・部活の際の筋肉の動きを計測し、データを数値や情報として可視化することで、運動スキルの向上にも役立ちます。また心拍情報やGPS機能※5を活用することで、トレーニング負荷を最大限まで高めたり、コート内での動き方を分析することができ、効率的な運動管理につながります。

 

上記以外にも、通学から帰宅まで様々なシーンでの生体情報の収集・解析を繰り返しながら、今の時代の学生たちにとって、どのような活用方法があるのか、日々その答えを探っています(図6)

※5 携帯電話のGPS機能を活用

図5
ウェアラブル技術の活用方法
図6
ウェアラブル技術が活用できる主なシチュエーション

パートナー企業と力を合わせ、新たな価値を生み出していく。

現在は研究員による着用試験を行っていますが、次のステップでは実際に学生たちに着用してもらい、試験を行う段階に移行していきます。長時間着用時のウェアの圧迫感、ウェアラブル端末を付ける位置や接着の方法など、学生たちの声や生態情報データを取得しながら研究・開発を進め、学生たちを猛暑から守るためにも少しでも早い製品化を目指します。さらに、大学などの運動を専門分野とする研究機関と共同して筋電研究を行うことで、運動技術の改善にも役立てていきたいと考えています。
我々の最終的な想いは、このウェアラブル技術を用いて、安心・安全で快適な学生生活の実現につなげていくことです。生体情報を見える化することで、速く走れるようになったり、遠くにボールを投げられるようになるなど、自身の成長を実感することができる体験を通して、改めて運動の楽しさに気づくなど、「カンコー ウェアラブル」が学生たちの新たな発見につながり、学生生活に今以上の「楽しさ」を付加するひとつのきっかけにもなり得るのではないかと考えています。そして、これらの想いを実現するために、パートナー企業との関係性をさらに強固なものにしていきながら、これから先も目まぐるしく変化する環境への適応や未来の学校生活を見据えた新たな価値を創造していきます。

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