学校制服はどうなる?

学校制服はどうなる?
制服の在り方と価値観の変容

2024.04.22

近年、制服に求める価値は大きく変化しています。学校では制服のモデルチェンジが進んでおり、そのスピードは過去20年間において最も速いとされています。新たに制服に求められる価値について、アンケート結果を交えながら考察します。

 

 

学校制服は常に時代を反映してきた

学校制服というと、あまり変わらないイメージがあるかもしれません。しかし、実は時代ごとの風潮を受けて変化し続けているのです。変化している背景には、時代ごとの価値観の変化があります。一方で、変わらない価値観もありました。

 

 

初期の学校制服に求められた価値(明治)

 

学校制服が始まったのは明治初期です。帰属意識や仲間意識の醸成を目的に採用されたといわれています。最初の学校制服は明治12年(1879年)の学習院で採用された、紺地に蛇腹の詰衿でした。その後、明治19年(1886年)に初代文部大臣が発した学校令を契機に、徐々に全国の学校に普及していきました。当時採用されていた黒の学ランは陸軍将校の服装に習ったもので、国家のリーダーとして着る人の誇りや周囲の憧れ、教育方針を体現する学生としての自負にもつながったといいます。

 

 

経済性とデザイン性が重視される時代に(昭和)

 

昭和初期(1940年代)には教育基本法と学校教育法が施行され、学校制服の大量生産が行われました。経済性が重視され、上流階級でない学生でも制服を着られるようになったのです。

戦前・戦時の制服統制を経て、昭和中期(1970年代)に入るとライフスタイルや消費構造に大きな変化が起こりました。これまで重視されてきた価値観に加えて、デザイン性も重視されるようになったのです。

1980年代に入ると、ブレザーにタータンチェックといった非常にデザイン性の高い制服を採用する学校が出始めました。当時はツッパリやスケ番など変形学生服が流行しており、学校側にとっては規律性の低下が課題でした。デザイン性の高い学校制服を採用することで、変形学生服を着用することが難しくなり、規律性の向上につながったといわれています。

 

 

学校生活に対する価値観の定着と時代に伴う生徒の声の反映(平成)

 

1990年代半ばからは、制服を着崩して着るスタイルが流行しました。ずり落ちるほど大きいサイズのスラックスを腰ばきしたり、極端に短いスカートをはいたりする生徒が増え、規律面だけでなく防犯面でも生徒への指導が課題となっていました。

2000年以降は、学校らしさの表現という視点だけでなく、着る生徒の意見や好みをデザインに反映させる学校が増加しました。好みの制服が増えたことで着崩しは減っていきました。この時期は学校制服に求める価値が安定した時期でもあります。帰属/仲間意識、学校らしさ、平等性、経済性、規則性などが制服の価値として定着しました。また子どもの意見を反映されるようになり、制服に対する考え方に変化がありました。制服のモデルチェンジも毎年300校前後と安定していましたが、令和に入り、大きな変革期を迎えることになります。

 

 

学校制服は「大激変時代」に突入

令和に入り、制服のモデルチェンジを行う学校が急増しています。下の図はカンコー学生工学研究所が全国の中学・高校を対象に、学校制服のモデルチェンジ件数を調べたものです。1997年から2021年までは平均して300校前後で推移していましたが、2022年から倍以上になっています。時代は今、制服の大きな変革期に入っているのです。

資料:カンコー学生工学研究所 2004‐2023年モデルチェンジ校数

これからの制服に必要とされる価値とは

学校制服の急速なモデルチェンジが行われている背景には、学校制服に対する価値観の変化があります。下の図は、カンコー学生工学研究所が2021年に実施した、全国の公立中学校1,194校が回答したアンケート結果です。

制服に求める価値を学校側に聞いたところ、「多様性」を重視する回答が高い結果となりました。ここでいう多様性とは、LGBTQへの配慮、体型や肌の色などにかかわらず誰でも似合うデザインといった要素をまとめたものです。これまでの学校制服では、必ずしも「多様性」は優先順位の高いものではありませんでした。社会が多様性を重視するようになったことで、学校制服への価値観にも波及している可能性があります。

これからの制服に必要と思われる役割・価値観はなんですか?(3つまで選択可)

資料:カンコー学生工学研究所 2021年8月 制服におけるLGBTQへの配慮およびこれからの制服の価値・役割・機能性に関するアンケート調査
全国の公立中学校5,000校対象(回収数:1,194校/回収率23.9%)

生徒と保護者にアンケート対象を拡大

学校側だけでなく、生徒や保護者は学校制服に対して、どのような価値を求めているのでしょうか。変わらず重視されている価値もあれば、この時代だからこそ重視されるようになった新たな価値観があるはずです。「多様性」も新たな価値観の1つでしょう。それらをひも解いていくことで、今後の学校制服の在り方が見えてくるでしょう。

そこでカンコー学生工学研究所は、「これからの制服に必要とされる価値観を知ること」を目的に、アンケートの対象を生徒や保護者に広げ、制服に求める価値について調査を行うことにしました。

 

 

まとめ

学校制服の歴史は日本の歴史と密接に関係しており、時代ごとの価値観を色濃く反映し、変化してきました。モデルチェンジを繰り返しながら、帰属意識や仲間意識、学校らしさ、平等性、経済性、規則性、デザイン性といった価値観が学校制服に反映されてきたのです。

そしていま、カンコーでは、全国の学校・生徒・保護者への調査を通して、学生服に求める価値の変化を理解する取り組みを行っています。今後は定量的な生徒・保護者への調査結果や、学校へのヒアリング結果、学校や制服に関する有識者へのインタビューなど、日本の制服に関する価値観の移り変わりや在り方について発信していきます。

 

(カンコー学生工学研究所 田中)

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